日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS19] 海洋と大気の波動・渦・循環力学

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 301A (3F)

コンビーナ:田中 祐希(東京大学大学院理学系研究科)、古恵 亮(APL/JAMSTEC)、久木 幸治(琉球大学)、杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、座長:久木 幸治(琉球大学理学部)、相木 秀則

10:45 〜 11:00

[AOS19-07] サハリン島西岸の深い海谷における宗谷暖流冷水帯起源水の海水交換過程

★招待講演

*三寺 史夫1飯田 博之2 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学環境科学院)

キーワード:陸棚端を挟んだ海水交換、陸棚波、海谷、宗谷暖流冷水帯

宗谷暖流の特徴的な現象として、サハリン島南西端付近から始まり、宗谷暖流沖合の表層にかけて存在する帯状の低温域(冷水帯)がある。Kuma et al.(2016)や飯田ら(2018)は冷水帯の直接観測を行い、冷水帯が低温高塩で特徴づけられる水塊(水温7℃、塩分34.0付近)で構成されており、この水塊は日本海外洋の水温躍層下部に起源を持つと指摘した。このため冷水帯が生じるには、外洋の低温高塩水が大陸棚へと湧昇し、岸近傍へと輸送される必要がある。そこで本研究は、サハリン島西岸における外洋と大陸棚間での海水交換のメカニズムを明らかにすることを目的とした。

 本研究ではまず、海洋大循環モデル(1/30° OFES)の出力を用い、冷水帯を構成する水塊の起源を追跡した。解析の結果、サハリン島西岸の都市であるKholmsk沖合いで、サハリン島北西の大陸斜面上に起源を持つ水塊が、急峻な海谷において等深線を急激に横切り、陸棚斜面上へと流入していることを見出した。さらに、この流入プロセスは順圧の力学で説明できる可能性も示唆された。しかしながら、大陸斜面と大陸棚の間には渦位の大きな勾配(渦位障壁)があるため、順圧流が等深線を横切ることは容易ではない。そこで、Princeton Ocean Model (POM)を用いた順圧数値実験(現実地形)を行ったところOFESで得られた海水交換とよく一致した結果が得られ、この海水交換は順圧の力学で説明できることが示された。海峡通過流は、陸棚波長波によって励起されることが知られている(Ohshima, 1994)。そのため、Kholmsk沖の海水交換は陸棚波の力学で説明される必要がある。POMを用い海底地形を理想化した順圧数値実験を行った結果、Kholmsk沖に存在する海谷地形によって陸棚波は散乱され、大陸斜面上に流量ピークを持つ第2、第3モードの陸棚波が励起されていること、そして、この大陸斜面上の流れが陸棚上へと流入することで、海水交換が生じることが分かった。次に、陸棚波の散乱が生じている海谷地形周辺の流れ場を解析したところ、非線形性が重要であることが明らかとなった。具体的には、1)大陸斜面の低渦位水を大陸棚上に移流することによって渦位障壁を解消し、導波管を形成する効果、2) 第1~3モードの陸棚波が励起した背景流によって高次モード(第4モード以上)陸棚波の伝搬が抑制され、斜面上に定常流(非線形定常流)を形成する効果、である。この非線形定常流によって陸棚上には大陸斜面から定常的に低渦位水が供給されることから、2)の効果は導波管の維持にも重要な役割を持つものと考えられる。以上のように、大陸斜面上の非線形定常流が海谷において大陸棚上へと湧昇し、最終的に冷水帯を構成することが分かった。

 最後に、数値実験から予想されるKholmsk沖での海水交換が、現実の海洋において存在するかを検証した。検証に用いたデータは日本海洋データセンターに登録されている水温・塩分の観測データで、解析期間は1960~1986年の夏季(7~10月)である。観測データを解析した結果、外洋からの海水流入が予想されるKholms近傍の観測点でのみ、海水交換の証拠となる海水湧昇が生じている様子が確認された。