[AOS19-P12] OGCMと粒子追跡法を用いた137E測線に到達する水塊における中規模渦に捕捉された輸送の影響の評価
★招待講演
キーワード:中規模渦、水塊、粒子追跡法
水塊形成および輸送に関して中規模渦が大きな役割を示していることは知られている。近年では、中規模渦に捕捉されて輸送される水塊の見積もりがなされており(例えばZhang et al 2014)、平均流に匹敵する量が運ばれているという試算もある。ただし、これらは衛星観測と理想的な渦の鉛直構造を仮定した見積もりであり、直接的な見積もりではない。この研究では、中規模渦を解像できる海洋大循環モデル(OGCM)と粒子追跡法の組み合わせにより、どの水塊に属する粒子がどのような形態で輸送されるかを定量的に診断することを試みる。ここでは137Eの子午面に到達する水塊についての中規模渦の役割について着目する。137E側線は気象庁により50年以上にもわたり維持された測線であり、また渦活動の重要性も指摘されているからである。具体的には137E 度の子午面断面に一グリッドあたり49個で合計約100万個の粒子を1993年から2017年まで毎年8月13日に撒き、解像度1/10のOGCMの日平均の計算結果をオフラインで用いた粒子追跡法により、混合層に達するまで逆追跡をおこなった。137E測線に達する粒子の軌道から、中規模渦に捕捉されて移動している水塊(渦捕捉)と、それ以外(渦非捕捉)に分類した。水塊の判別は混合層に達したときの温度、PV, 場所等で判定した。渦捕捉はOkubo-Weiss parameter を用いて判定した。Tropical Water (TW) 、Subtropical Mode Water( STMW), Eastern Subtropical Mode Water (ESTMW), Lower Central Mode Water (L-CMW) など代表的な水塊の分布は十数年変動も含めてほぼ現実的に再現されていた。TW は形成時には2割が中規模渦中に存在し、さらにそのうち6割が高気圧性渦であった。TWでは形成域から137Eに達したもののうち、約一割) が渦捕捉の状態で運ばれてきた。渦捕捉の軌跡は渦非捕捉のものが亜熱帯循環を反映した西南西方向であったのに対して、ほぼ真西方向であった。形成領域からの到達時間は両者でほぼ同程度であったが、平均流が東向きとなる亜熱帯反流の場所では渦捕捉の水塊の方が速く到達した。STMW では形成時に約3割が渦捕捉で、そのうち高気圧性の割合は8割程度であった。137Eに到達した水塊のうち渦捕捉の割合は約一割であった。STMW においては渦捕捉の方が到達に時間がかかるようになっており、その軌跡は単純な西方向ではなかった。ESTMW やL-CMW において形成時は2割弱が渦捕捉の形で存在し、高気圧性と低気圧性の割合はほぼ同じであった。渦捕捉の水塊の軌跡はTWと同じく、東西方向に卓越した構造を示したが、渦捕捉で到達した割合は5%以下であり、渦捕捉の方が137Eまでの到達に時間がかかった。これらの137Eに達する水塊のうち、5-10%が渦捕捉で到達するという見積もりは、過去の研究で時々主張される量よりも小さく思えるかもしれない。これらの差異についても議論する。