日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS20] 全球海洋観測システムによる研究成果と観測システム最適化

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 106 (1F)

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、増田 周平(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

09:30 〜 09:45

[AOS20-03] 全球観測網から推定する海盆規模塩分・溶存酸素変動

★招待講演

*纐纈 慎也1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:海洋観測、長期変動

全球自動観測網の発展により海洋内部の水温・塩分の変動が直接的に把握されるようになっている。例えば全球貯熱量の変動は、水位変動や地球の熱収支変動と比較して一定程度の確からしさで整合的に評価されるに至っている。また、海洋内部の海盆毎、海盆内の大規模変動についても特に表層水塊を中心に様々な研究がおこなわれてきている。しかしながら、循環や変動の定量的評価が十分になされているわけではない。例えば、現状の自動観測網で把握される深度(2000m)であっても、深い層の変動については主に塩分の観測精度の問題もあり十分検討されていない。また、自動観測網で測られてこなかったプロパティの変動についても十分わかっていない。そこで、本研究では、より長期の海洋変化を知る一つの取り組みとして、他の様々な観測と自動観測網を組み合わせることで、自動観測網が把握する変動の不確かさの評価や自動観測網が把握する海水循環の変動を利用して他の海水プロパティを把握することを目的とする。
その第一歩として自動昇降式フロート観測のみで作成した等密度面上での月ごと塩分・水温分布をもとにして海洋の主温度躍層以深の15年平均の拡散を含む平均流動場を作成し、月ごとデータから得られる長期変化に関わる収支を見積もった。その結果、特に中層以深の等密度面上での変化は拡散の効果が大きいと診断された。これは等密度面上、等圧面上での水温・塩分変化の比較から、主に中層以深の温度上昇によって説明される変化と推定された。この変化に伴う等密度面上での塩分変化のパターンは2回の高精度観測に現れる差と比較的良い一致を示しており、自動観測網の精度・品質管理に改善の余地はあるものの大域的には変化の検出力は低くないことも示唆している。これは、観測網を利用することで現存量変化とその仕組み(収支)を評価できることを表した結果といえる。
また、この塩分収支をベースとした15年平均の流動場を元に溶存酸素の長期平均場を与えることで、溶存酸素の収支について検討した。収支の残差の広域平均は、生物活動により消費される酸素量の過去の見積もりとある程度一致していた。但し、海域によっては、酸素のその場での長期変化と同じオーダーであるためより溶存物質の長期的・広域の変動を把握する観測網が必要であることも示唆していた。
なお、公演時にはこれらの結果と同化・数値モデル結果との比較やその他ここで利用したデータセットをもとにした研究についても紹介する予定である。