日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS20] 全球海洋観測システムによる研究成果と観測システム最適化

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、増田 周平(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

[AOS20-P01] 深海フロート用SBE41CPで生じる塩分バイアスについて

*小林 大洋1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:深海アルゴ、塩分観測

近年、深海アルゴの構築に向けて、深海用フロートの展開が国際的に進められている。深海における水温や塩分などの変化は、表層と比べてずっと小さいため、深海用フロートに求められる観測精度は、これまでよりも高いものが要求される。海洋研究開発機構は、鶴見精機と共同で開発した深海用フロートDeep NINJAを2019年1月末現在までに28台投入した。このうち20台については、データ精度の検証のため投入に併せて観測船によるCTD観測を行っている。本研究では観測データの品質評価の可能な18台分について解析を行った。

図1はSN4が観測した最初のプロファイルを観測船「みらい」のCTDデータと比較したものである。フロートの塩分観測値が船舶データよりも低いことは明らかだが、そのバイアスは圧力に比例して増加していくことが分かる。このような特徴は他のフロートにおいても認められる。

そこで塩分バイアスをΔS = ΔSoffset + ap x p (p:圧力)と表すと、その結果は以下のようにまとめられる。検証可能な18台全てで2000m以深に負の塩分バイアスがあることを示しており、その値が-0.01を超えるものが14台と、大半を占める。圧力依存性の大きさを示すapは例外なく負であり、これにより塩分は1000 dbarあたり平均で-0.0015程度低下していく。また海面で予想される塩分バイアスΔSoffsetもほとんどのフロートで負であり、メーカーによる公称精度(±0.01)を満たすものは2台に過ぎない。ΔSoffsetはセンサ検定時とほぼ同じ状況で得られていると考えられるから、この問題はかなり深刻である。また、apが小さいものほどΔSoffsetも小さくなるという関係が得られている。このことはこの問題が同一の原因から生じていることを示唆する。

この圧力依存性を持つ低塩バイアスの原因として、Deep NINJAが搭載している深海フロート用SBE41CP CTDセンサの電気伝導度計測セルの圧力による変形の補正が不十分であることが疑われる。Sea-Bird社では、計測セルをホウ珪酸ガラスPyrex®製の一重セルと仮定し、その物理特性から予想される変形に基づいて補正係数を与えている。しかしながら実際の計測セルは、Pyrex®製セルをポリウレタンで覆う二重構造であるから、二重セルの内側セルとしてのPyrex®製セルの変形に基づいた補正係数でなければならない。そこで単純な円筒構造を持つ二重セルを仮定し、周囲から一様の圧力がかかる場合の変形を計算した。その結果、内側セルの変形は想定されているものよりも大きく、現在のSBE41CPの設定では、塩分観測値に負の圧力依存性(ap < 0)が発生することを定性的に説明することができる。またフロートが深海に沈降した際、高圧・低温下で圧縮されたポリウレタンが硬化することが考えられる。そのため、フロートが浮上しつつ水圧から解放されても、外側セルが内側セルに内部応力を通じて圧をかけるため内側セルの内径は縮み、全長は伸びる。これによりΔSoffset < 0となる。このような計測セルの変質はDeep NINJAの最初の(深海への)沈降の際に生じるため、メーカーにより精密に調整されているにも拘わらずほぼ全てのSBE41CP CTDセンサに低塩バイアスが生じたものと考えられる。