日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS21] インド洋域の物理・生物地球化学・生態系と相互連関

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 303 (3F)

コンビーナ:升本 順夫(東京大学大学院理学系研究科)、齊藤 宏明(東京大学大気海洋研究所)、植木 巌(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:升本 順夫

16:30 〜 16:45

[AOS21-05] 東部インド洋における蛍光性溶存有機物の分布と光分解性

*武田 重信1 (1.長崎大学)

キーワード:インド洋、蛍光性溶存有機物、光分解

海洋の主要な炭素プールの一つである溶存有機物の一部は、紫外光の励起により青色蛍光を発することが知られている。蛍光性溶存有機物(FDOM)は、主にタンパク質様蛍光物質と腐植様蛍光物質で構成され、その動態には、表層での光分解と、中深層での微生物による有機物分解過程での生成が関与していると考えられている。外洋の中深層では、腐植様蛍光物質が鉄など微量金属の天然有機配位子としての役割を果たしている可能性も指摘されており、FDOMの分布や動態を明らかにすることは、海洋における微量金属の循環を理解する上でも重要になる。

本研究では、2018年11月の白鳳丸KH-18-6航海において、生物生産と有機物分解の活性が南北方向で大きく変化する東部インド洋の東経88度線上で断面観測を行い、FDOM蛍光強度の鉛直分布を北緯16.5度から南緯20度までの9測点で明らかにした。FDOMの測定は、CTD-ニスキン採水システムで採取した海水を孔径0.2 µmのフィルターでろ過後、励起波長350 nm(半値幅80 nm)蛍光波長410-450 nmのUVモジュールを備えたトリロジー蛍光光度計を用いて行い、4 ppb硫酸キニーネ標準液により規格化した。また、様々な深度から採水したろ過海水を石英瓶に入れて自然光下の表面海水かけ流し水槽内に5日間置き、蛍光強度の変化を毎日測定してFDOMの光分解性について検討した。

FDOM蛍光強度の鉛直分布は、表層で低く中層で増加して深層でやや減少する栄養塩型のパターンを示したが、それに加えて亜表層クロロフィル極大の直下の酸素極小層でも明瞭なピークが認められた。観測線上では、ベンガル湾の北緯15度付近でFDOM蛍光強度が最も高く、南に向かうにつれて水柱全体の蛍光強度が減少する傾向がみられた。中深層ではFDOM蛍光強度と見かけの酸素消費量(AOU)との間に相関関係が認められたのに対して、ベンガル湾の亜表層クロロフィル極大の直下付近では、その関係性から外れる高い蛍光強度が観測されたことから、有機物分解過程で生成されるFDOMの蛍光特性は、深度や海域によって異なる可能性がある。光照射実験では、開始後24時間で蛍光強度が大きく減少した後、数日にわたって緩やかに蛍光強度が減少するパターンが認められ、光反応性の異なる発蛍光団がFDOM中に存在することが示唆された。また、照射光のレベルに応じて光分解の程度に違いが見られた。これらの結果から、東部インド洋におけるFDOMの動態には、表層付近の光量および鉛直混合過程と、分解される有機物の量・質や微生物群集の深度による違いが強く影響を及ぼしていると考えられる。