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[BCG06-10] メタン生成アーキアのコア脂質主成分2-ヒドロキシアーキオールのアルキル鎖側の水酸基の絶対立体配置決定
キーワード:メタン生成菌、メタン資生化菌、アーキオール、構造決定
様々な極限環境で生育する特徴的な微生物の一群であるアーキアの主な特徴は,膜脂質が,イソプレノイドがグリセロールにエーテル結合したものであることである。特にメタン生成,メタン資化性アーキアにおいては,イソプレノイドのアルキル基のC-3位に水酸基が結合したアルキル基を持ったヒドロキシアーキオールが主成分となっている。またこの水酸基を持ったアルキル基のグリセロール結合位置に関する異性体として,sn-2-ヒドロキシアーキオール(1)とsn-3-ヒドロキシアーキオール(2)が存在し,これらは微生物種によって特異的である[1]。
ヒドロキシアーキオールは海底下におけるメタンハイドレート形成と蓄積から,嫌気的メタン酸化,湖沼から反芻動物の消化管のような小さなフィールドでのメタン生成に至るまで様々なC-1代謝に関わっている微生物の活動を示す分子(バイオマーカー)として重要な化合物であり,構造の決定[1]と,フィールド試料の分析[2][3][4]が各地で行われてきたが,この水酸基の絶対立体化学については未だ決定されていなかった。
発表者は2-ヒドロキシアーキオールの標準物質供給を目的としてこの水酸基がラセミ体である化合物の合成を行い,誘導体のガスクロマトグラフィー分析等を行ったところ,水酸基の立体化学に由来する1:1化合物のように見えるという結果を得た[5]。多くの文献資料ではこの化合物は単一化合物として分析されている結果とは異なっていた。
そこで今回この水酸基の立体化学について,あらかじめ不斉合成によって絶対立体配置の定まった2つの立体異性体のエーテル鎖に相当する部分を合成し,さらにヒドロキシアーキオールに導き,実際の生産菌の脂質コアと比較することで絶対立体配置を決定することにした。
化学合成はフィトールのKatsuki-Sharpless反応により生成した立体選択的エポキシドからエーテル鎖相当部分を合成し,キラルグリセロール誘導体とのエーテル結合形成を含む過程で行い二異性体(3および4)を得た。一方2-ヒドロキシアーキオールの生産菌Methanosarcina barkiiより脂質コアを抽出調製し,2-ヒドロキシアーキオールを調製した。“ラセミ化体” 2-ヒドロキシアーキオール,化学合成による2つの立体異性体,そして微生物由来の2-ヒドロキシアーキオールを比較したところ,誘導体のガスクロマトグラフィーにより,微生物由来の2-ヒドロキシアーキオールと3R体(3)が一致し,2-ヒドロキシアーキオールの水酸基の絶対立体配置は3Rであることが決定できた。また合成品(3および4)は水酸基を含まない飽和アルキル鎖をフィトールの水素添加で調製したことより,相当するメチル基の立体化学に伴いC-2‘位炭素が等価な2ピークを与えるのに対し,微生物由来の試料ではこれが1ピークであるといった興味深い結果も得られた。これは微生物由来試料は1つの異性体であり,水酸基を含まないアルキル鎖のメチル基の絶対立体配置も膜の性質に影響を与える可能性が高いことを示唆する。
[1] Sprott et al.,J Biol Chem(1990) 265: 13735.
[2] Hinrichs et al., Nature (1999) 398:802.
[3] Blumenberg et al., Science (2004) 101, 11111.
[4] Stadnitskaia et al., Org Geochem (2008) 39:1007.
[5] Yamauchi Res Org Geochem (2014) 30:33.
ヒドロキシアーキオールは海底下におけるメタンハイドレート形成と蓄積から,嫌気的メタン酸化,湖沼から反芻動物の消化管のような小さなフィールドでのメタン生成に至るまで様々なC-1代謝に関わっている微生物の活動を示す分子(バイオマーカー)として重要な化合物であり,構造の決定[1]と,フィールド試料の分析[2][3][4]が各地で行われてきたが,この水酸基の絶対立体化学については未だ決定されていなかった。
発表者は2-ヒドロキシアーキオールの標準物質供給を目的としてこの水酸基がラセミ体である化合物の合成を行い,誘導体のガスクロマトグラフィー分析等を行ったところ,水酸基の立体化学に由来する1:1化合物のように見えるという結果を得た[5]。多くの文献資料ではこの化合物は単一化合物として分析されている結果とは異なっていた。
そこで今回この水酸基の立体化学について,あらかじめ不斉合成によって絶対立体配置の定まった2つの立体異性体のエーテル鎖に相当する部分を合成し,さらにヒドロキシアーキオールに導き,実際の生産菌の脂質コアと比較することで絶対立体配置を決定することにした。
化学合成はフィトールのKatsuki-Sharpless反応により生成した立体選択的エポキシドからエーテル鎖相当部分を合成し,キラルグリセロール誘導体とのエーテル結合形成を含む過程で行い二異性体(3および4)を得た。一方2-ヒドロキシアーキオールの生産菌Methanosarcina barkiiより脂質コアを抽出調製し,2-ヒドロキシアーキオールを調製した。“ラセミ化体” 2-ヒドロキシアーキオール,化学合成による2つの立体異性体,そして微生物由来の2-ヒドロキシアーキオールを比較したところ,誘導体のガスクロマトグラフィーにより,微生物由来の2-ヒドロキシアーキオールと3R体(3)が一致し,2-ヒドロキシアーキオールの水酸基の絶対立体配置は3Rであることが決定できた。また合成品(3および4)は水酸基を含まない飽和アルキル鎖をフィトールの水素添加で調製したことより,相当するメチル基の立体化学に伴いC-2‘位炭素が等価な2ピークを与えるのに対し,微生物由来の試料ではこれが1ピークであるといった興味深い結果も得られた。これは微生物由来試料は1つの異性体であり,水酸基を含まないアルキル鎖のメチル基の絶対立体配置も膜の性質に影響を与える可能性が高いことを示唆する。
[1] Sprott et al.,J Biol Chem(1990) 265: 13735.
[2] Hinrichs et al., Nature (1999) 398:802.
[3] Blumenberg et al., Science (2004) 101, 11111.
[4] Stadnitskaia et al., Org Geochem (2008) 39:1007.
[5] Yamauchi Res Org Geochem (2014) 30:33.