日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG07] 地球史解読:冥王代から現代まで

2019年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 201A (2F)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、座長:佐藤 友彦(東京工業大学地球生命研究所)

09:30 〜 09:45

[BCG07-03] 後期古原生代の浅海域における酸化還元状態の変化:カナダ・ケープスミス帯

*元村 健人1清川 昌一1池原 実2佐野 貴司4田中 健太郎3三木 翼3佐野 有司3 (1.九州大学、2.高知大学、3.東京大学、4.国立科学博物館)

キーワード:後期古原生代、酸化還元状態

海洋の酸化還元状態の変化は海洋中の微量元素組成に大きな影響を与える事が知られている.先行研究では先カンブリア紀の海洋において生物必須元素濃度の低下により生物の進化が阻害されていた事が示唆されてきたが(Anber and Knoll, 2002),先カンブリア紀を通じた海洋酸化還元状態については,未だ不明な点が多い.特に後期古原生代には大酸化事変により海洋環境が大きく変化したとされているが(Lyons et al., 2014),その詳細な変動過程や原因については明らかでない.そこで本研究では約50mの岩相層序と主要・微量元素組成,C–N–S同位体比を含む化学層序を構築し,当時の海洋環境に関する検討を行なった.

本研究ではカナダ・ケープスミス帯のPovungnituk層群の北部より掘削されたコア試料を研究に用いている.コア試料に含まれる層序は約19億年前にスペリオルクラトンの縁辺に堆積した約50mの砂岩­­–黒色頁岩互層より構成され,粗粒砂岩の優勢部から黒色頁岩の優勢部へと変化する上方細粒化のシーケンス(下部層)とその上位の細粒砂岩優勢部(上部層)に大きく分ける事ができる.

分析の結果,下部層砂岩優勢部においてV濃度及び軽元素同位体比の変動が確認された.V濃度は55ppmから327ppmまで上昇し,その後緩やかに73ppmまで減少する.硫黄同位体比は,+12‰から-5‰まで減少し,その後緩やかに+14‰まで上昇する.有機炭素同位体比は-31‰から-33‰まで減少したのち緩やかに-32‰まで上昇する.窒素同位体比はおよそ+4‰から+9‰の間で変動する.

以上の分析結果は海洋の酸化還元状態の変動とその原因となる炭酸イオン及び硫酸イオン量の変化,酸化還元状態の変化に伴う海洋表層の硝酸イオン量変化を示すと考えられる.層序最下部において,黒色頁岩中のV濃度を有機炭素含有量(TOC)で規格化した値(<~50 ppm/%)は同年代の強還元的環境(富H2S)で堆積した黒色頁岩(Bravo Lake層: Partin et al., 2014)の値よりも低い値をとる.しかし下部層砂岩優勢部でV/TOCは上昇し(~105ppm/%),先行研究によって得られたデータの平均値を超える.このようなV/TOCの上昇は,海洋が弱還元的環境から強還元的環境へと変化したことに由来すると考えられる.また,以上の見解はV濃度とTOCの相関関係を用いた酸化還元状態の復元結果と整合的である.窒素同位体比のデータ(~+7 – +9 ‰)は現在の海洋と同じように高い値を示す.このことは硝化や脱窒,アンモニウム同化により,海洋中の窒素同位体比が高くなっていた可能性を示す.有機炭素同位体比と硫黄同位体比データは同時期に変化しており(δ13Corg: -30.6 – -33.2 ‰, δ34S: +11.9 – -4.1 ‰),ある共通の地質現象によって環境変化が起きたことを示す.δ13Corg,δ34Sの減少は軽いH12CO3-やSO42-の流入が原因であると考えられ,それらを引き起こす地質現象として巨大火成活動や,海退に伴う黒色頁岩等の酸化的風化が挙げられる.