[BCG07-P10] オーストラリア・アジアテクタイトイベント起源のイジェクタ堆積物の分布:衝突地点への示唆
キーワード:テクタイト、衝撃変成石英、イジェクタ、オーストラリア・アジアテクタイト
大規模な天体衝突によって形成されるガラススフェリュールであるテクタイトは、地球上では主に4つの地域に分布している (e.g, McCall, 2001)。そのうち、東南アジアから南極にまで及ぶ最大の分布域を持つオーストラリア・アジアテクタイトは、およそ79万年まえに東南アジアで起きた天体衝突(オーストラリア・アジアテクタイトイベント: AATE)によって形成されたとされる。この天体衝突イベントは、衝突天体の直径が数kmに達するような大規模な天体衝突イベントの中で最も新しく、衝突クレーターやイジェクタ層(衝突地点から放出された物質が堆積して形成される地層)などの衝突の証拠やそれに伴う古環境変動記録が長期間にわたる風化変質や侵食を受けることなくよく保存されていることが期待される。そのため、大規模天体衝突が引き起こす地球環境変動を調べるうえで重要な研究対象である。
地球表面積の10%以上を覆うテクタイト分布域の広さから、直径30-120kmの衝突クレーターが形成されたと推定されている (e.g., Prasad et al., 2007)。しかし、衝突クレーターは未だに発見されず、正確な衝突地点や衝突の規模、様式(衝突角度や速度、複数衝突であった可能性など)が明らかにされていないという問題がある。
従来、AATEの衝突地点推定は、テクタイトの分布に基づいて行われてきた。10cmを超える大きさや化学組成の不均質性から衝突地点近傍に分布するとされる層状テクタイトがタイ・ラオス・ベトナムの限られた地域に分布すること、海洋コア堆積物中のマイクロテクタイトの個数密度がインドシナ半島に近い程大きくなることは、衝突地点がインドシナ半島東部であることを示唆している (Shnetzler, 1992; Prasad et al., 2007)。
衝突地点をより厳密に制約するためには、イジェクタ層の分布が重要となる。イジェクタ層は、衝突地点に近い程層厚が厚くなり、そこに含まれる衝撃変成鉱物の含有量や粒径も大きくなることが知られているためである (e.g., Morgan et al., 2006)。しかし、インドシナ半島陸上において、この衝突によるイジェクタ層はこれまで報告されていなかった。
そこで我々は、インドシナ半島においてイジェクタ層を特定し、その分布を調べるため、タイ東北部・ベトナム中部・ラオス南部において野外調査を行ってきた。これまでに、タイ・ラオス国境付近のHuai Om セクションにおいて白亜系基盤岩を不整合に覆う第四紀層中から、天体衝突の最も確実な証拠の一つとされる衝撃変成石英を発見し、イジェクタ堆積物を特定した。この地点のイジェクタ堆積物は、下位より、基盤岩の同時礫を含む層厚およそ1mのシルト~砂層(ユニットⅠ)、テクタイトを含む層厚20cm~1mの礫層(ユニットⅡ)、層厚およそ3mの塊状砂層(ユニットⅢ)に区分される。
ユニットⅡ・ユニットⅢに相当するテクタイトを含む礫層とそれを覆う塊状砂層は、インドシナ半島東部の広い範囲に分布する。特にユニットⅡの層厚は、タイ・ラオス国境南部に近づく程厚くなる傾向が見られた。タイ東北部の、Hua Omセクションを含めた3地点のユニットII・IIIについて衝撃変成石英の含有量及び粒径を測定した結果、粒径は200μm程度で地点間に明確な差が見られなかったものの、含有量は5–10%程度で、タイ・ラオス国境南部に向かって大きくなることが分かった。 ユニットⅡの層厚の変化及び、衝撃変成石英の含有量の分布は、衝突地点がタイ・ラオス国境南部付近であることを示唆している。
現在、さらに多くの地点で衝撃変成石英の含有量・粒径の測定を行っている。本発表ではインドシナ半島東部広域におけるイジェクタ堆積物の層厚、衝撃変成石英の含有量・粒径の分布を報告し、衝突地点のより確からしい推定を試みる。
地球表面積の10%以上を覆うテクタイト分布域の広さから、直径30-120kmの衝突クレーターが形成されたと推定されている (e.g., Prasad et al., 2007)。しかし、衝突クレーターは未だに発見されず、正確な衝突地点や衝突の規模、様式(衝突角度や速度、複数衝突であった可能性など)が明らかにされていないという問題がある。
従来、AATEの衝突地点推定は、テクタイトの分布に基づいて行われてきた。10cmを超える大きさや化学組成の不均質性から衝突地点近傍に分布するとされる層状テクタイトがタイ・ラオス・ベトナムの限られた地域に分布すること、海洋コア堆積物中のマイクロテクタイトの個数密度がインドシナ半島に近い程大きくなることは、衝突地点がインドシナ半島東部であることを示唆している (Shnetzler, 1992; Prasad et al., 2007)。
衝突地点をより厳密に制約するためには、イジェクタ層の分布が重要となる。イジェクタ層は、衝突地点に近い程層厚が厚くなり、そこに含まれる衝撃変成鉱物の含有量や粒径も大きくなることが知られているためである (e.g., Morgan et al., 2006)。しかし、インドシナ半島陸上において、この衝突によるイジェクタ層はこれまで報告されていなかった。
そこで我々は、インドシナ半島においてイジェクタ層を特定し、その分布を調べるため、タイ東北部・ベトナム中部・ラオス南部において野外調査を行ってきた。これまでに、タイ・ラオス国境付近のHuai Om セクションにおいて白亜系基盤岩を不整合に覆う第四紀層中から、天体衝突の最も確実な証拠の一つとされる衝撃変成石英を発見し、イジェクタ堆積物を特定した。この地点のイジェクタ堆積物は、下位より、基盤岩の同時礫を含む層厚およそ1mのシルト~砂層(ユニットⅠ)、テクタイトを含む層厚20cm~1mの礫層(ユニットⅡ)、層厚およそ3mの塊状砂層(ユニットⅢ)に区分される。
ユニットⅡ・ユニットⅢに相当するテクタイトを含む礫層とそれを覆う塊状砂層は、インドシナ半島東部の広い範囲に分布する。特にユニットⅡの層厚は、タイ・ラオス国境南部に近づく程厚くなる傾向が見られた。タイ東北部の、Hua Omセクションを含めた3地点のユニットII・IIIについて衝撃変成石英の含有量及び粒径を測定した結果、粒径は200μm程度で地点間に明確な差が見られなかったものの、含有量は5–10%程度で、タイ・ラオス国境南部に向かって大きくなることが分かった。 ユニットⅡの層厚の変化及び、衝撃変成石英の含有量の分布は、衝突地点がタイ・ラオス国境南部付近であることを示唆している。
現在、さらに多くの地点で衝撃変成石英の含有量・粒径の測定を行っている。本発表ではインドシナ半島東部広域におけるイジェクタ堆積物の層厚、衝撃変成石英の含有量・粒径の分布を報告し、衝突地点のより確からしい推定を試みる。