日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 地球生命史

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 201A (2F)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功生形 貴男守屋 和佳

14:00 〜 14:15

[BPT05-02] 軟体動物における系統-殻微細構造-アミノ酸組成の対応関係
~アミノ酸の安定窒素同位体比を用いた古生態系復元に向けて~

*湯上 直貴1後藤(桜井) 晶子2ジェンキンズ ロバート2 (1.金沢大学大学院自然科学研究科自然システム学専攻、2.金沢大学理工研究域自然システム学系)

キーワード:アミノ酸、系統関係、栄養段階、軟体動物

「アミノ酸の安定窒素同位体比を用いた栄養段階推定法」(Chikaraishi et al., 2009)を化石試料に応用する際に最も懸念すべき点は,化石試料中のアミノ酸が初生的であるかどうかである.化石試料の選定方法として,「微細構造に則したアミノ酸組成」を用いることに期待がされる.これは,Kobayashi and Samata (2006)による現生二枚貝綱における殻微細構造ごとにアミノ酸組成が異なることを示した研究に依っている.つまり,「化石殻体中に,殻体に観察される微細構造に特有なアミノ酸組成を有しているか」を見ることで,化石殻体内に保存されたアミノ酸がコンタミではなく,その貝が元来持っていたアミノ酸であるかの判別が可能となる.しかし,Kobayashi and Samata (2006)では二枚貝綱における微細構造ごとのアミノ酸組成の違いを示したのみで,同微細構造の系統関係における安定性は示されていない.また,論文ごとに求めるアミノ酸組成の画分や,用いる手法・機器も異なり,安易に論文ごとの比較ができないといった問題も挙げられる.そこで,本研究では,現生試料から軟体動物における微細構造ごとのアミノ酸組成の安定性を明らかにすることを目的とした.本研究では含有有機物量も多く,また,原始的な微細構造とされる真珠構造に含まれるアミノ酸組成について,二枚貝綱,腹足綱,頭足綱の各系統内および系統間で比較して,系統および微細構造ごとのアミノ酸組成の安定性を調べた.

本研究結果より,腹足綱と二枚貝綱の両者で,アミノ酸組成は「原始的グループ」と「派生的グループ」の2グループに大別されることが分かった.腹足綱のTurbo sazaeTurbo mamoratusLunella coreensisは同じ科に属すが,これらのアミノ酸組成は安定していた.また,二枚貝綱では,翼形亜綱と古異歯亜綱において,また原鰓亜綱において,それぞれアミノ酸組成は安定しており,翼形亜綱-古異歯亜綱系統と原鰓亜綱系統においてはアラニン量などに相違がみられた.このことより,真珠構造のアミノ酸組成は,腹足綱では科内で安定,二枚貝綱では亜綱内で安定しているといえた.また,クラスター分析より,「腹足綱派生的グループ」と「二枚貝綱派生的グループ」は比較的近い関係性を示した.しかし,二枚貝綱・腹足綱において,殻形成に用いられるタンパク質は,それぞれ独立して獲得されてきた可能性が示唆されている(Mann et al., 2018).これは,タンパク質の機能によって含まれやすいアミノ酸は決まってくるため,異なるタンパク質を有していてもアミノ酸組成は進化的に収斂し,類似したと考えられる.

本研究を通して,真珠構造の化石試料選別に用いるアミノ酸組成群を,Nautilus系,古腹足上目原始的グループ,古腹足上目派生的グループ,二枚貝綱原始的グループ(原鰓亜綱),二枚貝綱派生的グループ(翼形亜綱・古異歯亜綱)の5つに設定できた.つまり,これら各グループに属する種については,栄養段階分析に向けた化石試料の選別条件である「微細構造ごとのアミノ酸組成」の基準に照らして選別できるようになった.