日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT05] 地球生命史

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 201A (2F)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功生形 貴男守屋 和佳

15:00 〜 15:15

[BPT05-06] 滋賀県野洲川から産した鮮新世樹幹化石の化石化過程:有機地球化学分析によるアプローチ

*中村 仁哉1沢田 健2池田 雅志1中村 英人3塚腰 実4 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻、2.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、3.大阪市立大学大学院理学研究科、4.大阪市立自然史博物館)

キーワード:樹幹化石、化石化過程、微生物分解、植物テルペノイド、リグニンフェノール

[はじめに] 滋賀県湖南市を流れる野洲川の河床では、後期鮮新世(約270万年前)の化石林が露出している。その樹木材化石の産状を見ると、内部は生きた木本来の組織構造や材の色を保存しているのに対し、表面部分は黒くくすんだ色に変色していて組織構造が喪失しているという状態のものが複数あった。この黒色化現象については特に詳細な検討がされておらず、その要因は不明である。本研究では、この樹幹化石について有機地球化学分析によって、分類群および樹幹化石の化石化過程・タフォノミーを検討した。

[試料と方法] 野洲川化石林に露出した樹幹化石から剥ぎ取ったものを試料として用いた。表面の黒化が進んだ部分、内部の生木のような褐色部分及びそれらの中間的な暗褐色部分の3か所を試料からピックアップした。脂質をジクロロメタン/メタノールで抽出した後に、シリカゲルカラムによって無極性〜極性成分(脂肪族炭化水素画分、芳香族炭化水素画分、極性画分)に分画した。すべての画分をGC-MSを用いて(遊離態)バイオマーカー分析を行った。また、抽出残渣はキューリーポイントパイロライザーを搭載したGC-MSにより熱分解および熱化学分解分析を行った。熱化学分解にはTMAHを用いた。

[結果と考察] 熱化学分解GC-MS分析の結果、バニリルフェノールが特に卓越して検出されたことから本試料は裸子植物であることが判明した。また遊離態バイオマーカー分析の結果、裸子植物が普遍的に持つフィロクラダンが卓越して検出されたこと、ヒノキ科に特徴づけられるクパラン型セスキテルペノイドが検出されたこと、メタセコイアなどに見られるスギオールが検出されなかったことなどから、本試料はヒノキ亜科であることが推定された。

 内側の褐色部分は、生きた樹木が持ちうる成分が主要に検出され、生木のような非常に良い状態のままで保存されてきたことが示唆されている。表面部分の黒色化現象については、木材の燃焼などで熱を受けることによって多数生成される多環芳香族炭化水素(PAH)がほとんど検出されなかったことから、炭化作用による影響はほとんど受けていないものと考えられる。表面部分において、熱化学分解で得られた生成物が内側の褐色部分と比較して全体的に減少していたこと、さらに易分解性であるアルデヒドの比率が下がっていたことから、表面部分は何らかの分解を受けていることが推定された。

 表面部分の遊離態成分として、芳香族化及びA環減成を受けたテルペノイドが検出された。これらは微生物分解作用によって生成されることが報告されており、表面部分の構造の変化には微生物分解の影響が大きいことが示唆された。表面部分でペリレンのような菌類由来の成分が検出されたこともそれを支持する結果である。また、熱化学分解で得られた生成物のうち、より複雑な構造であるメトキシフェノールの比率が表面部分で減少していることから、ゲル化(Gelification)が起こっていることが推定される。一方で、表面部分にはトリテルペノイドやアルキル脂質のような被子植物由来の遊離態成分が比較的目立って検出された。このことから、堆積物中で他の植物体に由来する遊離態成分が有意に存在し、それらが表面部分に吸着することが考えられる。これらの結果から、本試料は初期続成過程において微生物作用による分解とゲル化に代表される高分子化、および他の植物由来の遊離態成分の吸着が行われていると推定される。