日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS04] 大気化学

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院)、江口 菜穂(Kyushu University)

[AAS04-P22] 対流圏二酸化窒素の三酸素同位体組成定量

*中川 書子1丁 トウ1角皆 潤1山口 高志2野口 泉2 (1.名古屋大学 大学院環境学研究科、2.北海道立総合研究機構 環境科学研究センター)

キーワード:窒素酸化物、対流圏、三酸素同位体組成

二酸化窒素(NO2)は、対流圏や成層圏での化学反応を駆動する光化学オキシダントの濃度に影響を与える重要な微量気体成分である。その多くは、まずNOとして大気中に排出され、NOがHO2やO3などと反応してNO2となる。NO2は、大気中でさらにHNO3に酸化されて大気から除去されるが、その反応経路は日射量や温度などを反映して変化する。この反応経路を明らかにすることは、大気中に放出されたNOの寿命や放出から沈着までの輸送距離を考える上で不可欠である。近年、三酸素同位体異常(Δ17O値) を指標に用いることで、NOからHNO3への光化学反応経路が解析できることが明らかになってきた(Michalski et al., 2003; Tsunogai et al., 2010; Nelson et al., 2018)。これは、Δ17O値がO3生成反応などの特殊な反応でのみ変化し、一般の反応では変化しないため、HNO3のΔ17O値よりNOからHNO3へ至る反応経路上で加わったO3由来のO原子数の情報を引き出すことができるからである。ただし、過去の報告で使用されているNO2のΔ17O値は実測値ではなく、あくまでもモデルから推定されたものであった(Michalski et al., 2003; Morin et al., 2009)。そのため、NO2のΔ17O値を定量することは一つの大きな課題であった。また、NO2は、HNO3となる以外に、不均一反応やフミン酸などとの反応を経由して、HONOにも還元されることが知られている(Finlayson-Pitts et al., 2003; Stemmler et al., 2006; Kleffmann, 2007)。HONOは、光分解してOHラジカルを放出するなど多様な反応を駆動するため、HONOの起源や大気中での挙動を把握することは非常に重要である。近年、HONOのΔ17O値定量法が確立され、大気中HONOの起源解明の指標として活用され始めたが、HONOの前駆物質の1つであるNO2のΔ17O値が測定できないことから、誤差の大きい解析しか出来なかった。

そこで本研究ではNO2のΔ17O値を定量する手法を開発した。NO2の捕集には、HONO捕集用のフィルターパック法(野口他, 2007)にNO2捕集用のフィルター(トリエタノールアミン(TEA)含浸フィルター)を加えることによって行った。NO2はTEA含浸フィルター上にNO2-態として集め、これをアジ化水素と反応させることによってN2Oに還元し、さらに熱分解によってO2に変換し、そのΔ17O値を定量することでNO2のΔ17O値を定量した。開発した手法を用いて、名古屋市と札幌市でNO2とHONOのΔ17O値を定量するための観測を数回行った。その結果、NO2のΔ17O値は日出と共に上昇し、正午前後に最大になり、その後減少し続けて日出直前に最小になる時間変動を示した。また、HONOのΔ17O値も同様の時間変動を示したことから、NO2はHONOの主要発生源の1つであることが考えられた。また、札幌市のHONOは名古屋市と比べると、有意に低いΔ17O値を示したことから、札幌はNO由来のHONOの寄与が大きいと考えられた。