日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 同位体水文学 2019

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

[AHW24-P03] 赤城山の山頂に出現する一時的な湖沼「血の池」におけるヤマヒゲナガケンミジンコの生態について

平野 有里1、*安原 正也2李 盛源2船生 泰寛3岩崎 望2霜田 奈積2 (1.立正大学地球環境科学部(学)、2.立正大学地球環境科学部、3.立正大学大学院地球環境科学研究科)

キーワード:赤城山、一時的な湖沼、ヤマヒゲナガケンミジンコ、水圏生態学、休眠、炭素・窒素同位体

赤城山の山頂部の標高1,400 m付近に位置する「血の池」(面積約0.008 km2)は、初夏から秋にかけて一時的に水が出現する湖沼、すなわち“ephemeral lake”として知られている。「血の池」には魚類は生息しておらず、その生態系は主にプランクトンから構成されている。その代表種が「血の池」の名前の由来ともなった赤色を呈するAcanthodiaptomus pacificus(ヤマヒゲナガケンミジンコ)である。水が出現した際にA. pacificusが大発生し、湖沼が赤く見えたことから「血の池」と呼ばれている。本研究では、このような一時的に形成される湖沼に生息するA. pacificusの生活環を中心とした生態を明らかにすることを目的とし、2018年6月2~3日、10月16日、12月7日に現地調査を実施した。
2018年には、10月1日0:00~10月19日10:00の期間中に最大水深98 ㎝(10月3日5:00)の湖水が出現した(船生泰寛,未公表データ)。10月16日の調査日時点の湖心の水深は37 cmであった。同日、「血の池」の13地点から、同一地点における深度方向のサンプルを含む計17試料(各1 Lの湖水を32㎛メッシュのプランクトンネットにてろ過したもの;ただし,湖心のみ4 Lをろ過)を採取し、実験室に持ち帰って試料中の個体数の測定ならびに個体の解剖を行った。また、6月および12月の調査では同じ地点において表層土壌を採取し、その中から休眠卵や休眠個体の発見を試みた。
10月16日に採取したA. pacificusは成体、幼体を合わせて7919個体であり、ほとんどはコペポダイト幼生であった。その分布は水深の深いところや溶存酸素濃度(DO)の高い地点に多い傾向を示し、最も密度の高かった湖心の水深32cm地点(湖底より5 cm上)では477個体/LのA. pacificusが確認された。門田(1971)によると、生活環の短縮が見られる湖沼の場合でも、卵からノープリウス幼生を経てコペポダイト幼生にいたるまでには約4か月弱かかるとされている。しかし、「血の池」では,コペポダイト幼生にいたるその個体成長は湖水の出現からわずか2週間程度と、さらに早い生活環を見せることが明らかとなった。また、湖水が消滅する約3日前の10月16日時点でもほとんどがコペポタイド幼生であったことから,「血の池」においてはA. pacificusは幼生の形で休眠を行っている可能性が示唆される。今後、窒素や炭素の同位体に基づく食性の解明や土壌からの休眠卵・休眠個体の発見および孵化実験を試み、湖水の消長や水質の変化といった水文学的な現象・要素も踏まえながら、「血の池」におけるA. pacificusの生態をさらに解明してゆく予定である。