[BBC03-P02] 湧水中懸濁物に存在するメチルホスホン酸と亜リン酸の検出
キーワード:メチルホスホン酸、亜リン酸、イオンクロマトグラフィー
はじめに:リンの生物循環を構成する過程において、メチルホスホン酸と亜リン酸がそれぞれ中間生成物として存在することが知られている。海洋では水中のバクテリアが、細胞中でメチルホスホン酸、亜リン酸を合成している可能性が示された(Van Mooy et al.2015)。淡水域でも、強いリン制限下にある西湖(山梨県)の表水層においてシアノバクテリアSynechococcusがメチルホスホン酸を代謝している可能性が強く示唆された(岩田、2014)。しかし、天然水中に存在するメチルホスホン酸及び亜リン酸は極低濃度と考えられており、実際に天然水中からこれらの化合物を検出したという報告はない。本研究では,メチルホスホン酸及び亜リン酸の高感度定量法を開発し、琵琶湖水および湧水中からの検出を試みた。
方法:イオンクロマトグラフィーを用いて、リン制限下湖水中の極微量リン酸イオンを定量するための条件を改良し、メチルホスホン酸、亜リン酸の定量を可能にした(Maruo et al., 2016、辻ほか、印刷中)。米原市世継の湧水群「かなぼう」と琵琶湖K1地点(最大水深8m、深度:6m)で、それぞれ2018年11月4日と同年11月6日に試水を採取した。以下の方法により、懸濁物中に含まれるメチルホスホン酸及び亜リン酸の抽出を試みた。孔径0.2 μmのポリカーボネート製メンブランフィルター(Nuclepore: Whatman)で試水1.5 Lをろ過した。ガラス瓶にそのフィルターとMQW 25mLを入れ、蓋をしめてウォーターバス(60)中で1時間加熱した。この抽出液を孔径0.2 μmのディスク型メンブランフィルター(IC ACRODISC, Pall)でろ過した。このろ液を懸濁物(主として微生物)中のリン化合物定量に用いた。これとは別に試水を採取直後にカプセルフィルター(SUPOR Acropak 200 Capsule Filter, Pall: 孔径0.8/0.2 μm)でろ過したもの溶存態試料とした。
結果と考察:湧水地「かなぼう」の懸濁物抽出試料からメチルホスホン酸(4.8 nM)及び亜リン酸(3.6 nM)が検出された(水中の濃度に換算)。また、琵琶湖K1地点の懸濁物抽出試料からも亜リン酸(23 nM)が検出された。両地点の溶存態試料からメチルホスホン酸および亜リン酸は検出されなかった。両成分は極微量であり、水中には放出されていないか、直ちに利用されているものと考えられる。生物体内に含まれるメチルホスホン酸および亜リン酸は、他の水域でもイオンクロマトグラフィーを用いて定量できる可能性が高い。
参考文献
岩田智也(2014)湖沼表層に出現するメタン極大層の形成パターンと好気的生成機構の解明.科学研究費助成事業研究成果報告書 課題番号23681003.
辻一真、丸尾雅啓、小畑元(2019)イオンクロマトグラフィーを用いる天然水中極微量メチルホスホン酸の定量.分析化学 68(4), 印刷中.
Maruo M, Ishimaru M, Azumi Y, Kawasumi Y, Nagafuchi O, Obata H (2016) Comparison of soluble reactive phosphorus and orthophosphate concentrations in river waters. Limnology 17(1):7-12.
Van Mooy BAS, Krupke A, Dyhrman ST, Fredricks HF, Frischkorn KR, Ossolinski JE, Repeta DJ, Rouco M, Seewald JD, Sylva SP (2015) Major role of planktonic phosphate reduction in the marine phosphorus redox cycle. Science 348(6236): 783-785.
方法:イオンクロマトグラフィーを用いて、リン制限下湖水中の極微量リン酸イオンを定量するための条件を改良し、メチルホスホン酸、亜リン酸の定量を可能にした(Maruo et al., 2016、辻ほか、印刷中)。米原市世継の湧水群「かなぼう」と琵琶湖K1地点(最大水深8m、深度:6m)で、それぞれ2018年11月4日と同年11月6日に試水を採取した。以下の方法により、懸濁物中に含まれるメチルホスホン酸及び亜リン酸の抽出を試みた。孔径0.2 μmのポリカーボネート製メンブランフィルター(Nuclepore: Whatman)で試水1.5 Lをろ過した。ガラス瓶にそのフィルターとMQW 25mLを入れ、蓋をしめてウォーターバス(60)中で1時間加熱した。この抽出液を孔径0.2 μmのディスク型メンブランフィルター(IC ACRODISC, Pall)でろ過した。このろ液を懸濁物(主として微生物)中のリン化合物定量に用いた。これとは別に試水を採取直後にカプセルフィルター(SUPOR Acropak 200 Capsule Filter, Pall: 孔径0.8/0.2 μm)でろ過したもの溶存態試料とした。
結果と考察:湧水地「かなぼう」の懸濁物抽出試料からメチルホスホン酸(4.8 nM)及び亜リン酸(3.6 nM)が検出された(水中の濃度に換算)。また、琵琶湖K1地点の懸濁物抽出試料からも亜リン酸(23 nM)が検出された。両地点の溶存態試料からメチルホスホン酸および亜リン酸は検出されなかった。両成分は極微量であり、水中には放出されていないか、直ちに利用されているものと考えられる。生物体内に含まれるメチルホスホン酸および亜リン酸は、他の水域でもイオンクロマトグラフィーを用いて定量できる可能性が高い。
参考文献
岩田智也(2014)湖沼表層に出現するメタン極大層の形成パターンと好気的生成機構の解明.科学研究費助成事業研究成果報告書 課題番号23681003.
辻一真、丸尾雅啓、小畑元(2019)イオンクロマトグラフィーを用いる天然水中極微量メチルホスホン酸の定量.分析化学 68(4), 印刷中.
Maruo M, Ishimaru M, Azumi Y, Kawasumi Y, Nagafuchi O, Obata H (2016) Comparison of soluble reactive phosphorus and orthophosphate concentrations in river waters. Limnology 17(1):7-12.
Van Mooy BAS, Krupke A, Dyhrman ST, Fredricks HF, Frischkorn KR, Ossolinski JE, Repeta DJ, Rouco M, Seewald JD, Sylva SP (2015) Major role of planktonic phosphate reduction in the marine phosphorus redox cycle. Science 348(6236): 783-785.