日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG07] 地球史解読:冥王代から現代まで

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)

[BCG07-P08] 後期トニア紀のマグネサイトから想定される全球凍結前の海水組成

*宮崎 彩1狩野 彰宏1白石 史人2 (1.東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻、2.広島大学 地球惑星システム学専攻)

キーワード:新原生代、蒸発岩、海水成分

藻類・原生動物・多細胞動物の放散が進行した新原生代は生命進化にとって重要な時代である。その背景には全球凍結のような激変があり,エディアカラ紀以降の環境変動と化石記録についての理解は大きく進みつつある。しかし,地球表層が全球凍結にいたるまでの環境的背景については良く理解されていない。
南オーストラリア州フリンダーズレンジには新原生代〜カンブリア紀の浅海成堆積物が発達し,特にスターチアン氷期前後の優れた地層記録が保存される。今回対象とするのは北部のLeigh Creek (LC section) に露出するSkillogalee Dolomiteである。本層はスターチアン氷期堆積物の下位にあり,年代は788±7Ma (後期トニア紀) とされている (Hood and Wallace 2018)。岩相は少量のケイ質砕屑物を含むが,大半は炭酸塩からなり,層内レキ岩・ストロマトライト・tepee構造を含む極浅海での堆積物である。本層の最も顕著な特徴はマグネサイトを大量に含んでいることにある。マグネサイトは厚さ1m程度の層,もしくは層内レキ岩のクラストとして存在し,ドロマイトと共産する。Tepee構造などから蒸発性の環境が示され,マグネサイトのより高い炭素同位体比と酸素同位体比は,マグネサイトがドロマイトより後に沈殿したことを示唆する。ただし,ジプサムの仮像は認められない。
Skillogalee Dolomiteの鉱物組合せは原生代の限られた時期の蒸発性環境にしか認められない。一方,顕生代の蒸発環境ではCa炭酸塩とドロマイト,ジプサム,ハライトの順番に沈殿し,マグネサイトは生成しない (Hardie and Eugster 1980)。特異な鉱物組合わせ(ドロマイト−マグネサイト)を説明するために,海水の連続的蒸発で予想される鉱物沈殿のモデル計算を行ったところ,Mg/Ca > 10かつMg > Alkalinity > Caの条件に解が得られた。硫酸濃度は現在のレベルでも結果に関係しない。アルカリ度は現在の10倍以上になり,高い二酸化炭素分圧か低いCa濃度を反映したものと考えられる。また,高いMg/Ca比の原因として,低い中央海嶺での海水循環と活発な炭酸塩堆積に加え,800Ma頃のジプサムを含む蒸発岩生成 (Evans 2006) によるCaの枯渇が考えられる。海水のpHが炭酸カルシウムの溶解平衡に支配されているのであれば,Ca濃度の極端な低下が海水のpH上昇を促し,大気二酸化炭素の低下につながったのかもしれない。

Evans 2006, Nature 444, 51-55.
Hardie and Eugster 1980, Science 208, 498-500.
Hood and Wallace 2018. Global and Planetary Change 160, 28-45.