日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-01] 災害を乗り越えるための「総合的防災教育」

2019年5月26日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)

[G01-P07] 災害の三角形-統合的・継続的な防災教育を理科の授業に実装するための概念装置の提案-

*野村 祐子1 (1.消防大学校消防研究センター)

キーワード:防災教育、理科教育、防火教育、災害概念、災害の三角形、科学コミュニケーション

明確な物理現象を観測する場合には地震計などの「物的装置」が用いられるのに対し、複雑で曖昧な現象を理解する場合には心的イメージを脳内に構成するための「概念装置」が用いられる。例えば、「災害」という概念装置は、火山学者の脳内に噴火を想起し、防火工学者の脳内に火災を想起する。学問の専門分化が進む一方で、防災には多くの分野が関係している。個人や社会が大局観を持った選択をしなければならない場面において、個々の専門家が自身の分野を超えた大局観を提供することは、ますます困難になっている。人類がチームワークで災害を乗り越えるためには、分野を超えた見通しの良さを与える、多様な災害に共通する普遍性を備えた領域横断的な概念装置を開発し、共有する必要がある。消防の世界では、「燃焼の3要素(可燃物・酸素・熱)」が、複雑な火災現象を理解するための概念装置の役割を果たしてきた。著者は、要素間の相互作用による状態間の遷移(着火や消火)を説明できない燃焼の3要素の欠点を指摘し、多数の要素が非線形相互作用を及ぼし合う複雑系の概念装置の1つである「自己組織化」概念を用いることによって、社会現象と自然現象を統合的に理解できることを示した(野村、2019)。

自然界の現象は、自然界の一部である人間社会の現象も含めてすべて、「物質」・「エネルギー」・「運動」の3つの要素間の相互作用によって支配されている。これら3要素間の相互作用を三角形で表現し、「災害の三角形」という名前を与えることによって、日常生活を送る中で矮小化されやすい災害の概念を、システム思考に基づく分析が可能な普遍的概念に進化させることができるというのが、本講演の焦点である。例えば、水蒸気噴火を災害の三角形を用いて分析すると、熱水(物質)の持つ内部エネルギーが周囲環境の変化によって運動エネルギーに変換される現象として描き出される。すると、火山学者は原油タンクのボイルオーバーの危険性を容易に理解できるようになると考えられる。別の例を挙げると、木村(2017)は台風を燃焼現象の類推として説明している。積乱雲は、水蒸気(物質)の持つ内部エネルギーを凝結熱として放出することによって空気を加熱し、その浮力で上昇気流(運動)を維持している。火災の場合、可燃物(物質)が燃焼するときに内部エネルギーを反応熱として放出することによって空気を加熱し、その浮力で煙突効果が生じる。木村(2017)によれば、「積乱雲は煙突のようなものである」。

「災害の三角形」が社会に広く共有される概念装置となって、自然災害、人災、複合災害を統合的に理解できるようになれば、日常の中で見落とされている災害の可能性を、体系的に発想させることが可能になると期待される。本講演では、理科の授業における「災害の三角形」を活用した防災教育の可能性について、考えてみたい。