日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2019年5月26日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)

[G03-P07] 日本で先駆けとなった高等学校の探究活動における科学倫理教育

*川勝 和哉1 (1.兵庫県立西脇高等学校)

キーワード:探究活動、科学倫理、グループワーク、チームティーチング、複眼的視点

1.はじめに~科学倫理教育を始めた原点

 平成18年に課題研究の指導を始めてすぐに感じたのは、科学倫理観の育成教育の必要性であった。当時は、全国でもまだ実施されていなかった「科学倫理」を学校設定科目として、初めて開講した。教科書は、筆者自らが執筆した。たとえば、石棺に関する研究の過程でこのようなことがあった。勤務校の敷地内の古代の大王のための石棺の研究を論文にまとめる際に、石棺の大きさを実感として示す目的で、生徒が中に横たわった写真を撮影して掲載した。この論文を、JSEC(Japan Science and Engineering Challenge)に応募したところ、この写真が倫理的に問題であるとの指摘を受けた。その後STAP細胞問題が報道され、これを機に、科学者にとって重要な倫理観について社会的に議論が活発になった。2021年から実施される高等学校の新学習指導要領でも、新教科「理数探求」が設定される。ここでは、科学倫理についても一定の紙面が割かれることになっている。高等学校で課題研究などの探究活動が実施されている以上、研究倫理の教育は必須である。



2.具体的な指導内容と方法

 科学者には、必要な適性や資質としての専門的知識や技能を学ぶことが求められるが、より広く社会人としても、科学に対する基本的な知識や倫理観が求められる。将来科学者や技術者になろうとする生徒はもちろんのこと、科学者や技術者を将来の職業としない生徒に対しても、社会で起こっている、あるいは起ころうとしているさまざまな問題について正しく判断することができる知識を身につけ、個人としての客観的な判断が可能になるような考察の訓練をしておく必要がある。

 科学倫理の学習は、探求活動が本格的に始まる前から始め、探究活動が一通り終わるまで研究と平行して実施する。倫理の基礎を学習した後、4~5名程度のグループに分かれて、生徒自らが設定するテーマについてグループワークをおこなう。教員はできる限り口出しせず、生徒の自発的な議論を見守るようにする。倫理観は、生徒相互の議論と、そこからあらたに見いだされる問題の共有によって醸成されるものであり、教員が一方的に教え込むことができるようなものではない。このグループワークは、1年間に3回にわけて実施する。議論の結果は、第1回目は口頭発表、第2回目はポスター発表、第3回目は論文発表という形で公開する。論文は、生徒ごとの進路に応じたテーマで、ひとりひとりの生徒が書く。発表会はすべて、他校の教員や生徒、保護者や地域住民に公開している。また、生徒がまとめた論文は、生徒研究論文集としてまとめ、無償配布する。

 科学倫理の授業は、複数の教員によるチームティーチングの形式で実施する。筆者を中心に、理科、数学科、公民科、情報科、国語科、英語科などと連携して進め、自然科学を日常生活や社会とのつながりの中でとらえ、教育内容から生徒に対するコメントまで、複数の異なる目でチェックしながら進める。



3.科学倫理教育の成果と評価

 科学倫理の教育が進むにつれて、生徒が報道を見聞きする姿勢が明らかに変化する。報道に対しても批判的な視点で見るようになり、複眼的視点で物事を判断するようになる。一方、教師の日ごろの言動にも変化がみられる。教師は、これまで何気なく発言していた内容や発言方法に注意を払うようになるなどし、明らかに教員自身の倫理観や人権意識が向上している。科学倫理のような科目は、評価の方法が難しい。毎時間のグループ研究にどのようにかかわったかとか、発表会での言動など、具体的な評価項目で総合的に評価する。