日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG29] 海岸低湿地における地形・生物・人為プロセス

2019年5月26日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:藤本 潔(南山大学)

[HCG29-P04] 東日本大震災後発生した湿地の生態系に復興事業が与えた影響 -宮城県塩竈市野々島の事例-

*山口 凜1 (1.京都大学文学部)

キーワード:湿地、震災、生態系、震災湿地、植生図

東北地方太平洋沖地震によって発生した地盤沈下と津波によって、三陸沿岸地域に多数の干潟や塩性湿地が出現した(以下、震災湿地)。環境省が行なった調査により一部の震災湿地ではゲンゴロウ(Cybister cinensis)やカワツルモ(Ruppia rostellata)など生物多様性保全上重要な動植物の生息が確認された。それに続いて、研究者によって多数の震災湿地で植物多様性の研究が行われ、希少な植物の生育が報告された。
 一方で震災湿地を取り巻く現実は厳しい。震災後は地盤が隆起していることに加え、ほとんどの震災湿地が原型復帰および災害時の被害縮小のための復興事業の対象となったからである。被災地では海岸防災林復旧事業として防潮堤の陸側に隣接して幅200m以上、地下水位から2.9mの高さまで盛り土がされ多くの震災湿地が消失した。
復興事業の震災湿地生態系への影響を軽減するために、防潮堤のセットバックや12の保護区が設定された。保護区では植物多様性の継続的研究が行われており、保護区設定が保全上一定の効果を上げたことが報告されているが、保護区に設定されず復興事業を受けた震災湿地の経年変化を追った研究は行われておらず、復興事業の影響がどの程度であったかは詳しく分かっていない。
 そこで本研究では、生物多様性保全上重要な生態系が確認されながらも復興事業の対象となった宮城県野々島の震災湿地を対象として、復興事業の影響を明らかにするために植生および動植物相の経年変化を調査した。調査方法としては、当湿地の震災前から現在にいたるまでの衛星写真をもとに植生図を作成しその変遷を追った。また、2017年・2018年に動植物相調査を行い、復興事業前に環境省が行なった調査結果と比較して生態系の変化を検討した。
 その結果、多数形成された震災湿地はほとんどが埋め立てられたこと、現在でも解放水域は縮小傾向にあること、現在の植生は工事完了時点から遷移していること、侵略的外来種に指定されているアメリカザリガニ(Pocambarus clarkii)とセイタカアワダチソウ(Solidago canadensis var. scabra)が侵入したことがわかった。