日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG31] 原子力と地球惑星科学

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)、竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)

[HCG31-P02] 内陸部での河川下刻速度の推定技術の高度化に向けた検討-紀伊半島の事例-

*中西 利典1小松 哲也1小形 学1細矢 卓志2加賀 匠2 (1.日本原子力研究開発機構、2.中央開発株式会社)

キーワード:段丘、環流旧河谷、編年、第四紀後期、紀伊半島

内陸部の河成段丘の乏しい地域において適用できる河川下刻速度の推定手法の一つに、穿入蛇行の跡痕地形である環流旧河谷に着目した方法(安江ほか、2014)が提示されている。しかし、1) 離水時期の編年は十分ではなく、2) 複数の環流旧河谷への手法の適用性も確認されていない。そこで、これらの課題の克服を目指して、環流旧河谷の発達が良い紀伊半島の十津川流域を事例地域として下記の研究開発を実施した。本研究開発は、過去数十万年前以前からの隆起・侵食を把握するための技術の拡充という観点から、地層処分などのサイト選定や安全評価に資するものである。

十津川沿いに分布する環流旧河谷のうち、河床からの比高が100~120 m程度の環流旧河谷に残された平坦面を対象に、長石を用いた光ルミネッセンス年代測定の一種であるpIRIRに適した試料の採取と旧河床高度の認定を目的としたボーリングコア掘削を4か所で実施した。また、環流旧河谷の離水時期を制約するために、環流旧河谷の下流で河床からの比高が40~50 mの河成段丘2地点からpIRIR年代測定や宇宙線生成核種(TCN)年代測定、微化石・テフラ分析のための試料を採取した。さらに、河口付近の海成段丘を構成する標高40 mの露頭からpIRIR年代測定や微化石分析のための試料を採取した。

十津川の本流によって形成されたと考えられる斜交葉理を伴う砂層や円礫まじりの砂礫層が得られたのは、河床からの比高が100 m程度の環流旧河谷1か所のみであった。その他の掘削地点では、風化皮膜の発達した角礫を含む砂礫層が主体であり、それらには泥層や基質支持層が挟在した。これらは、環流旧河谷を埋積した斜面堆積物であると考えられる。また、特に注目すべき点は、河床からの比高が110 m程度の環流旧河谷において、本流によって形成されたと考えられる砂層や円礫を伴う砂礫層が地表から54 m掘削しても確認できなかったことである。これは、環流旧河谷に残された平坦面の標高を旧河床の高さとして読み替えられない場合があることを示す。

今後、上述のコア試料および露頭から採取した砂層においてpIRIRやTCN年代測定を実施して、離水時期を定量的に検討する予定である.また、泥質な層準において火山灰や微化石分析を実施することによって、離水時期を補足的に検討する。上記の結果を統合して、内陸部の河成段丘の乏しい地域において適用できる河川下刻速度の推定手法の構築を目指す。

謝辞:本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地層環境長期安定性評価技術高度化研究)」の成果の一部である。

参考文献:
安江健一・高取亮一・谷川晋一・二ノ宮淳・棚瀬充史・古澤 明・田力正好(2014)内陸部における侵食速度の指標に関する検討:環流丘陵を伴う旧河谷を用いた研究.地質学雑誌,120(12),435-445.