日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG31] 原子力と地球惑星科学

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)、竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)

[HCG31-P03] 石英の水和反応に関する水熱実験:自然現象に対する新たな年代測定手法の開発に向けて

*丹羽 正和1島田 耕史1 (1.日本原子力研究開発機構)

キーワード:自然現象、石英、水和、水熱実験、年代測定

火山・火成活動、地震・断層活動、隆起・侵食などの様々な自然現象の影響を把握することは、原子力施設などの重要建造物の安全評価、ひいては地層処分などにおけるサイト選定にとっても非常に重要である。本研究では、これら自然現象の変動の履歴や現象プロセスを明らかにするための新たな年代測定手法の開発のため、石英の水和反応に着目した検討を行った。
石英は地殻浅部に普遍的に存在する安定な鉱物であるが、非常に遅い速度ではあるものの水が石英中に拡散し、石英表面に水和層が形成されることが知られている。考古学分野では、この水和層の厚さに基づく年代測定手法も提案されている(例えば、Ericson et al., 2004, J. Archaeol. Sci.; Calligaro et al., 2009, Appl. Phys. A)。この石英水和層を用いた年代測定法が地質試料に対しても適用できれば、例えば次のようなことへの反映が期待できる。1) 化石やテフラなどの年代指標に乏しい砂礫層への適用による堆積年代の推定、2) 断層破砕帯物質への適用による断層の活動時期の推定、3) 熱水脈や周辺母岩への適用による熱水活動の温度や継続時間などの推定。本研究ではまず、水和層の形成条件や速度を把握するため、花崗岩(白亜紀後期の江若花崗岩)中の石英粒子を対象として、含水下で100時間、指定の温度(150℃または250℃)・圧力(9.8 MPaまたは25.5 MPa)を加えた水熱実験を行った。さらに、実験後の石英の水和層厚さの測定として、二次イオン質量分析(SIMS)で水素イオン濃度の深さ方向の変化を調べた。
試料はB級の岩盤等級に属する新鮮な花崗岩で、15×15×3 mm角に切り出し、鏡面研磨して実験に供した。水熱実験は二酸化炭素加圧(pH3.2~3.6の酸性条件)と窒素加圧の2ケースで実施した。水熱実験後、鏡面研磨した面の石英の部分にSIMSでCsイオンビームを照射し、二次イオンとして検出される水素イオン強度の深度プロファイルを測定した。水素イオン濃度は、SiO2標準試料により定量した。
SIMS分析の結果、250℃、25.5 MPa(地下1 kmでの静岩圧に相当)の条件においてのみ表面から約2 µmまでの深さで水素イオン濃度の明瞭な増加が認められた。また、窒素加圧よりも二酸化炭素加圧のケースの方が水素イオン濃度の増加の程度が大きかった。Ericson et al. (2004)に基づき、水素イオン濃度の深度プロファイルを相補誤差関数でフィッティングして求めた水和反応の拡散係数は、考古学試料や人工の石英結晶から得られたそれと調和的な値を示した。アレニウス則により外挿して得られる常温での拡散係数から推定すると、水和層の発達が1万年で最大数µm程度になる場合もあることが期待される。したがって、地質試料に対してもSIMSを用いた同様の測定による石英水和層を用いた年代測定法が適用できる可能性がある。ただし今後、様々な形状を示す実際の地質試料に対し、初期状態を壊すことなく水平面を確保して精度よく測定する手法の構築が課題の一つとなる。
一方、150℃の条件で水素イオン濃度の明瞭な増加が認められなかったのは、アレニウス則から導かれる拡散係数から推定すると、100時間程度の時間ではSIMSで明瞭に検知できるほどの水和層が形成されなかったためと考えられる。

 本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。