[HCG31-P04] 花崗岩中の物質移行特性評価のための実効拡散係数と空隙率
キーワード:花崗岩、実効拡散係数、ウラニン、空隙率
背景・目的
花崗岩に代表される結晶質岩では,地下水は主に割れ目中を流動するが,地下水の流動速度が非常に遅い場合,地下水中の溶存物質は濃度勾配により割れ目周辺の岩盤へ拡散(マトリクス拡散)し,溶存物質の移動が遅延される。そのため,マトリクス拡散は岩盤中における元素の物質移行挙動を評価する上で重要な現象である。我々はこれまで,岐阜県の土岐花崗岩を対象に,健岩部であっても数十μm程度の微小な空隙が存在し,その空隙が物質移動を抑制する可能性があること(石橋ほか, 2016)や,薄片写真を画像解析して得られる二次元的な空隙率(P2D)が,透過拡散試験で求めたフルオレセインナトリウム(以下「ウラニン」)の実効拡散係数(De)と良い相関があること(石橋, 2017)を見出した。本研究では,土岐花崗岩および日本各地の花崗岩(稲田花崗岩,万成花崗岩,丹沢石英閃緑岩,武節花崗岩,黒髪島花崗岩)の合計13試料を対象に透過拡散試験を実施し,健岩部におけるマトリクス拡散の拡散速度(実効拡散係数)と薄片観察より求めた空隙率の関係性について検討した。
実験方法
透過拡散 (through-diffusion)試験では,岩石試料をφ25 mm, 厚さを5 mmの円柱状に切断・研磨したうえで高濃度側と低濃度側の2つのリザーバーの間に固定した。高濃度側リザーバーには,トレーサーとして塩化ルビジウム(RbCl), 塩化バリウム(BaCl2)を各1 mmol L-1, ウラニン (C20H10Na2O5)を500 mg L-1を含む溶液を, 低濃度リザーバーには超純水をそれぞれ100 mLになるように満たした。溶液中の濃度変化は,高濃度側リザーバーから0.1mL, 低濃度側リザーバーから5mL溶液を分取し測定した。なお低濃度リザーバーから溶液を分取した後は水頭差が出ないよう5 mL超純水を添加し,希釈されたトレーサー濃度は計算で補正した。採取した溶液試料は蛍光光度計(Trilogy Laboratory Fluorometer),ICP-MS(Agilent 7700x)にて測定した。実効拡散係数は,低濃度側リザーバーのサンプリング時間に対する濃度変化のグラフ(破過曲線)を作成し,定常状態にあると考えられるプロットの傾きから算出した。また,供試体近傍の岩片から作製した薄片を実体蛍光顕微鏡で観察し,薄片写真を解析して二次元的な空隙率(P2D)を算出した。
結果
透過拡散試験で得られた各花崗岩のウラニンの実効拡散係数は10-15~10-12 m2s-1オーダー,空隙率(P2D)は0.002~5%であった。図1に本実験による結果および既往の研究結果(石橋, 2017)を引用し,空隙率と実効拡散係数の関係を示す。空隙率(P2D)が1%を超える試料についてみると,空隙率(P2D)とウラニンの実効拡散係数には,正の相関があるように見受けられる(決定係数(R2)は0.36程度)。このことは,土岐花崗岩以外の花崗岩においても,空隙率P2Dから実効拡散係数を概算できる可能性があることを示している。一方で,P2Dが1%を下回る試料は,この傾向から外れた値をとる。P2Dの値は試料の空隙のサイズ分布や解析用画像の解像度に依存するため,今後は薄片観察やSEM観察を行うとともに,高解像度の画像解析を実施し,低空隙率の試料に対するP2D法の適用性を検討する必要がある。
参考文献
石橋正祐紀ほか, 深部結晶質岩マトリクス部における微小移行経路と元素拡散現象の特徴,原子力バックエンド研究, vol.23, pp.121-130 (2016).
石橋正祐紀, 結晶質岩における物質移動モデル化技術の新展開 -花崗岩中の空隙構造の分布に関する研究-, 「平成28年度 東濃地科学センター 地層科学研究 情報・意見交換会」資料集, p.16 (2017).
花崗岩に代表される結晶質岩では,地下水は主に割れ目中を流動するが,地下水の流動速度が非常に遅い場合,地下水中の溶存物質は濃度勾配により割れ目周辺の岩盤へ拡散(マトリクス拡散)し,溶存物質の移動が遅延される。そのため,マトリクス拡散は岩盤中における元素の物質移行挙動を評価する上で重要な現象である。我々はこれまで,岐阜県の土岐花崗岩を対象に,健岩部であっても数十μm程度の微小な空隙が存在し,その空隙が物質移動を抑制する可能性があること(石橋ほか, 2016)や,薄片写真を画像解析して得られる二次元的な空隙率(P2D)が,透過拡散試験で求めたフルオレセインナトリウム(以下「ウラニン」)の実効拡散係数(De)と良い相関があること(石橋, 2017)を見出した。本研究では,土岐花崗岩および日本各地の花崗岩(稲田花崗岩,万成花崗岩,丹沢石英閃緑岩,武節花崗岩,黒髪島花崗岩)の合計13試料を対象に透過拡散試験を実施し,健岩部におけるマトリクス拡散の拡散速度(実効拡散係数)と薄片観察より求めた空隙率の関係性について検討した。
実験方法
透過拡散 (through-diffusion)試験では,岩石試料をφ25 mm, 厚さを5 mmの円柱状に切断・研磨したうえで高濃度側と低濃度側の2つのリザーバーの間に固定した。高濃度側リザーバーには,トレーサーとして塩化ルビジウム(RbCl), 塩化バリウム(BaCl2)を各1 mmol L-1, ウラニン (C20H10Na2O5)を500 mg L-1を含む溶液を, 低濃度リザーバーには超純水をそれぞれ100 mLになるように満たした。溶液中の濃度変化は,高濃度側リザーバーから0.1mL, 低濃度側リザーバーから5mL溶液を分取し測定した。なお低濃度リザーバーから溶液を分取した後は水頭差が出ないよう5 mL超純水を添加し,希釈されたトレーサー濃度は計算で補正した。採取した溶液試料は蛍光光度計(Trilogy Laboratory Fluorometer),ICP-MS(Agilent 7700x)にて測定した。実効拡散係数は,低濃度側リザーバーのサンプリング時間に対する濃度変化のグラフ(破過曲線)を作成し,定常状態にあると考えられるプロットの傾きから算出した。また,供試体近傍の岩片から作製した薄片を実体蛍光顕微鏡で観察し,薄片写真を解析して二次元的な空隙率(P2D)を算出した。
結果
透過拡散試験で得られた各花崗岩のウラニンの実効拡散係数は10-15~10-12 m2s-1オーダー,空隙率(P2D)は0.002~5%であった。図1に本実験による結果および既往の研究結果(石橋, 2017)を引用し,空隙率と実効拡散係数の関係を示す。空隙率(P2D)が1%を超える試料についてみると,空隙率(P2D)とウラニンの実効拡散係数には,正の相関があるように見受けられる(決定係数(R2)は0.36程度)。このことは,土岐花崗岩以外の花崗岩においても,空隙率P2Dから実効拡散係数を概算できる可能性があることを示している。一方で,P2Dが1%を下回る試料は,この傾向から外れた値をとる。P2Dの値は試料の空隙のサイズ分布や解析用画像の解像度に依存するため,今後は薄片観察やSEM観察を行うとともに,高解像度の画像解析を実施し,低空隙率の試料に対するP2D法の適用性を検討する必要がある。
参考文献
石橋正祐紀ほか, 深部結晶質岩マトリクス部における微小移行経路と元素拡散現象の特徴,原子力バックエンド研究, vol.23, pp.121-130 (2016).
石橋正祐紀, 結晶質岩における物質移動モデル化技術の新展開 -花崗岩中の空隙構造の分布に関する研究-, 「平成28年度 東濃地科学センター 地層科学研究 情報・意見交換会」資料集, p.16 (2017).