日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS13] 津波とその予測

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:近貞 直孝(防災科学技術研究所)、対馬 弘晃(気象庁)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

[HDS13-P14] 福島第一波高計記録を再現した東北地方太平洋沖地震津波モデル

*金戸 俊道1西 愛歩2安中 正2 (1.東京電力ホールディングス株式会社、2.東電設計株式会社)

キーワード:津波波源モデル、東北地方太平洋沖地震、福島第一原子力発電所、GPS1秒データ

1. 研究の目的
 2011年3月11日東北地方太平洋沖地震において、福島第一原子力発電所では、運転中であった1号機~3号機が停止後の炉心の冷却に失敗し、炉心を損傷する事故(過酷事故)に至った。東京電力では、東北地方太平洋沖地震津波の理解と原子力発電所の津波評価への活用を目的として、東北地方太平洋沖地震の津波波形、地殻変動、痕跡高のデータを説明する波源モデル(L67モデル)を設定した。
 L67モデルは、福島第一沖合に設置されていた波高計記録の第一波、第二波の1段目まではほぼ再現することができたが、第二波の2段目については再現性が十分でなかった。これについて、今村・他(2016)は、杉野・他(2013)のモデルのすべり量を微調整することにより、第二波の2段目まで再現するモデルを提案しているが、本研究では以下の検討を行うことでさらなる再現性の向上を試みた。

2. 研究の内容
(1) GPS1秒データを用いたインバージョン
 L67モデルの検討の際に考慮した問題として、既往の津波波源モデル(内閣府(2012)、杉野・他(2013)、Satake et al. (2013))が地震動データによるモデルや陸域の地殻変動の時間変化に比べ、すべりに時間がかかりすぎていることがあった。これを解消するために、すべりの時間窓を30秒×3とし、破壊にあまり時間がかからないようにしてインバージョンを行っていた。
 本研究では、国土地理院から公開されているGPS1秒データを併用すれば、時間窓を強制的に短くしなくても、すべりにかかる時間を自然に短くできるのではないかと考え、津波波形とともにGPS1秒データをインバージョンに取り込んだ。インバージョンに使用した具体的なデータ等は以下のとおり。
 GPS1秒データとして「1Hz_2hr_files」をダウンロードして使用した。インバージョンには、震源時から6分間の記録が完全な391点の記録を用いた。グリーン関数は、Frankel (2013)による6層地盤モデルを用い、プログラムaxitraにより計算した。
 地殻変動データとして海底の8地点のデータを用いた。観測された津波波形として44点の記録を用いた。
 インバージョンにより得られた波源モデルの比較用として、東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによるデータ(ttjt_survey_29-Dec-2012_tidecorrected_web.csv)から3882点、電力サイトのデータ185点のデータを用いた。
インバージョンには、非負最小2乗法のプログラム(Lawson and Hanson (1974))を用い、1276個の小断層を147個のブロックに分け、破壊伝播速度2.0km/s、時間窓30秒×5個として、147×5=735個のすべり量を決定した。

(2) 「仮想津波記録」を用いたインバージョン
 福島第一沖合波高計記録は、非線形の影響が強く、線形インバージョンで使用できるのは、初動付近に限られている。そのため、福島第一沖合の水深50mの位置で、初期断層モデルとグリーン関数を用いて「仮想津波記録」を設定し、その波形を調整した波形を「観測記録」としてインバージョンに追加することにより、計算波形を波高計記録に近づける方法を用いた。
 この方法は、痕跡記録との適合度を改善するためにも用いた。

3. 結論
 上記に示すインバージョン手法により、福島第一沖合波高計記録を良好に再現する津波波源モデルを設定した。このモデルは、GPS1秒データを併用することにより、すべりに時間がかりすぎるという問題を解消し、「仮想津波記録」を用いる方法により、福島第一沖合波高計記録をL67よりも良好に再現している。また、観測された津波波形との適合度、痕跡高との適合度はL67と同程度である。

文献
今村・他(2016):修正された東北地方太平洋沖地震津波モデルによる福島第一原発サイトへの影響再評価,土木学会論文集B2(海岸工学), Vol.72, No.2,I-361-I-366

謝辞
GPS1秒データ(1Hz_2hr_files)は、GSI (Geospatial Information Authority, japan)、NGDS (Nippon GPS Data Service, Japan)、Hitz (Hitachi Zosen Co., Japan)、GPSS (GPS Solutions, Boulder, CO, USA)、VERIPOSによるものを使用させていただいた。