日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS15] 人間環境と災害リスク

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[HDS15-P06] 平成30年7月豪雨における外水氾濫の素因の検討と体系化

*木村 佳菜子1須貝 俊彦2 (1.東京大学、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科)

キーワード:小田川、天井川、微高地、クレバス・スプレー、河床勾配

はじめに
外水氾濫の素因に関しては,河川工学分野や地理・地形学分野における研究で言及されてきたが,その多くは氾濫と地形・地質との関係を自明のこととして扱う,あるいは補足的に解釈するにとどまる.
本研究は平成30年7月豪雨における外水氾濫を対象とした.近年では異例の発生数となったためである.地域としては,外水氾濫の集中した瀬戸内側の河川,中でも破堤地点が多くその位置情報が正確に把握されている高梁川水系小田川を選択した.本研究の目的は,①今回の氾濫についてのデータベースを作成すること,②素因を空間スケールごとに,人為の影響もふまえつつ考察すること,③水害リスク評価の高精度化に寄与する知見を得ること,である.

地域概要と手法
平成30年7月豪雨は,2018年6月28日~7月8日に主に西日本で発生した記録的な大雨である.この豪雨による外水・内水氾濫や土砂災害で甚大な人的・人家被害が出た.
中国地方には侵食小起伏面という特徴的な地形が見られる.瀬戸内側の平野は沈降地域に中国山地から河川が流下して形成されたもので,河川上流域には深層風化花崗岩類が分布する.小田川は吉備高原に発し倉敷市で高梁川に合流する一級河川であり,高梁川より河床勾配が小さいこと,高梁川の小田川合流部の下流に狭窄区間があることにより洪水時には背水の影響を受ける.流域内で特に被害の大きかった真備町地区は,高度経済成長期から現在にかけてベッドタウン化していた.
日本地理学会災害対応委員会が,今回の豪雨による氾濫地点をマッピングしたものをWebで公開している(http://ajg-disaster.blogspot.com/).そのマップに掲載されている氾濫地点(主に小田川)について河道特性を調査し,マトリクスにまとめた.また,小田川,高梁川,芦田川水系吉野川,賀茂川の破堤地点についてアナグリフによる空中写真判読を行い,破堤地形分類図を作成した.
小田川の河床縦断面図,および河床勾配,河道幅・低水路幅,堤外地最大水深の縦断変化グラフを作成した.前二者については移動平均による平滑化も行った.

結果・考察
破堤地点の多くが県の管理区間にあり,小田川支流での破堤地点の9/10地点は天井川化していた.県による整備が追いついていないことが推察される.マトリクス中の破堤2地点と,国土交通省社会資本整備審議会(2018)で報告された法崩れ5地点が樋門であった.樋門のある地点は破堤・法崩れのリスクが高い.微高地は氾濫に対し比較的安全とされてきたが,マトリクス中で最も破堤幅が大きく落堀が顕著であった2地点は微高地上にあることから,微高地における水害リスク評価を更新する必要がある.似た特徴を持つ破堤地点と非破堤地点の比較から,急な堤防傾斜が破堤に影響することも示唆された.
縦断方向の変化グラフからは,堰の下流で河床勾配が比較的大きい区間では氾濫が発生しにくく,その下流で河床勾配が緩やかになる区間では氾濫が発生しやすいことが示唆された.小田川の破堤地点の一つでは,堤防が周囲と比べて低くなっていることも明らかになった.

結論
地点スケールでの素因として,樋門,天井川区間,堤防の低まりが挙げられる.微高地の安全性にも疑問が残る.区間スケールでは,河床勾配の比較的大きい堰の下流区間より,その下流にある河床勾配の緩くなる区間がハイリスクである.中でも,福原にある大屈曲外岸は氾濫が繰り返し発生している.また,水系・地域スケールでは,小田川と高梁川の河床勾配差に影響する侵食小起伏面を素因と捉えた.花崗岩類が広く分布するため中小河川の天井川化が起こりやすいということも挙げた.人為の影響については,国・県の整備が追いついていないことを示したが,浸水リスクが指摘されていた真備町地区がベッドタウン化していることから土地開発の問題も大きいと考えられる.


参考文献
泉田温人(2018),鬼怒川下流域におけるクレバススプレーの形成と微高地発達への寄与,東京大学新領域創成科学研究科自然環境学専攻修士論文
内田和子(2011),岡山県小田川流域における水害予防組合の活動,水利科学No.320,pp.40-55
太田陽子,成瀬敏郎,田中眞吾,岡田篤正(2004),日本の地形6 近畿・中国・四国,東京大学出版会
国土交通省社会資本整備審議会(2018),平成30年7月豪雨について,http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/r-jigyouhyouka/dai11kai/pdf/5-1.shiryou.pdf
国土地理院防災地理課(2015),治水地形分類図解説書,http://www.gsi.go.jp/common/000106990.pdf
山本晃一(1994),沖積河川学―堆積環境の視点から,山海堂