[HDS15-P08] 確率論的断層変位ハザード解析における主断層評価式に関する検討―既知の活断層との関連性の考慮―
キーワード:確率論的断層変位ハザード解析、主断層出現確率、断層変位量、活断層との関連性
1.はじめに
高尾ら(2013)は,日本国内の地表地震断層のデータを基に確率論的断層変位ハザード解析(PFDHA)に必要な各種評価式を提案している.提案式のうち,地震の規模(Mw)と主断層が出現する確率(P1p)との関係式,及びMwと主断層の断層変位量(最大値MDおよび平均値AD)との関係式については,①活断層の存在が知られている場所で発生した地震と,②累積的な痕跡が無く活断層の存在が知られていない場所で発生した地震について,Youngsら(2003)と同様に区別していない.本検討では,高尾ら(2003)の評価式を提案する際に用いた107個の震源について,①と②を区別した上で評価式の再検討を実施した.
2.検討方法
次に示す手順で検討した.(a)上記107個の震源と既往の文献に記載のある既知の活断層のうち最も距離が近いものと因果関係があると仮定,(b)震源から当該活断層までの最短距離を算出(逆断層及び正断層:当該断層の傾斜を考慮した断層面までの最短距離,横ずれ断層:平面図上の最短距離),(c)震源と既知の活断層との関連性の有無を閾値(本検討では4km,6km,8km)で評価,(d)閾値以内のものを①とし,閾値を超えるものを②として区別,(e)震源メカニズムと当該活断層のメカニズム(タイプ)が矛盾する地震は②に区別,(f)①及び②のデータセットのそれぞれについて,MwとP1pとの関係式を最尤推定法に基づくロジスティック回帰式により同定,(g)①及び②のデータセットのうち地表地震断層の断層変位量が得られている16地震について,Mwと主断層の断層変位量との関係式を最小二乗法に基づき同定.なお,高尾ら(2013)に倣い切片を回帰した.
3.結果及び考察
P1pのロジスティック回帰曲線を次に示す.P1p=ez/(1+ez),z=a+bMw,閾値4kmの場合:①a=-33.652,b=5.168,②a=-31.068,b=4.751,閾値6kmの場合:①a=-39.781,b=6.148,②a=-24.515,b=3.688,閾値8kmの場合:①a=-42.321,b=6.558,②a=-20.912,b=3.102.①のデータに基づくP1pは高尾ら(2013)の回帰式より大きくなり,②は高尾ら(2013)より小さくなることが想定されるところ,実際にいずれの閾値の場合においても,想定と同じ結果が得られた.また,P1pについては,既知の活断層から震源までの距離と相関があることも確認できた.
次に,主断層の断層変位量のMwとの関係式を次に示す.log(MD)=c+0.82Mw,log(AD)=d+0.62Mw,閾値4kmの場合:①c=-5.20,d=-4.70,②c=-5.14,d=-4.77,閾値6kmの場合:①c=-5.15,d=-4.69,②c=-5.32,d=-4.91,閾値8kmの場合:①c=-5.16,d=-4.70,②c=-5.27,d=-4.87.変位量回帰式もP1pと同様に,①のデータに基づく回帰式は高尾ら(2013)の回帰式より大きくなり,②は高尾ら(2013)より小さくなることが想定されるところ,実際には閾値6km及び8kmについては想定と同じ結果を得たものの,4kmでは明瞭な差は認められなかった.
4.結論
PFDHAに必要な各種評価式のうち,主断層に関する評価式について,①活断層の存在が知られている場所で発生した地震と,②累積的な痕跡が無く活断層の存在が知られていない場所で発生した地震を閾値を設定して区別した上で,評価式の再検討を実施した.その結果,主断層が出現する確率(P1p)については,①と②の相違が明確であるとともに,活断層から震源までの距離との間に相関が認められたことから,式を使い分けることが可能であることが判った.したがって,今後,確率論的地震動ハザード解析(PSHA)における領域震源の考え方をPFDHAに応用する場合には,本研究成果を適用することができるものと考える.
なお,変位量評価式については,閾値によっては①と②に差が認められるものの,閾値との明確な相関がみられない.地表地震断層のデータが少なく相関が認められない可能性があるため,今後,より多くのサンプルを収集した上で評価式を検討することが望ましいと考えられる.
参考文献
1)高尾ら,日本地震工学会論文集,第13巻,2013,pp.17-36
2)Youngs, R.R., et al. , Earthquake Spectra, Vol.19, No.1, 2003, pp.191-219
3)地質調査総合センター,活断層データべース,2013
4)東京大学出版会,活断層詳細デジタルマップ[新編],2018
高尾ら(2013)は,日本国内の地表地震断層のデータを基に確率論的断層変位ハザード解析(PFDHA)に必要な各種評価式を提案している.提案式のうち,地震の規模(Mw)と主断層が出現する確率(P1p)との関係式,及びMwと主断層の断層変位量(最大値MDおよび平均値AD)との関係式については,①活断層の存在が知られている場所で発生した地震と,②累積的な痕跡が無く活断層の存在が知られていない場所で発生した地震について,Youngsら(2003)と同様に区別していない.本検討では,高尾ら(2003)の評価式を提案する際に用いた107個の震源について,①と②を区別した上で評価式の再検討を実施した.
2.検討方法
次に示す手順で検討した.(a)上記107個の震源と既往の文献に記載のある既知の活断層のうち最も距離が近いものと因果関係があると仮定,(b)震源から当該活断層までの最短距離を算出(逆断層及び正断層:当該断層の傾斜を考慮した断層面までの最短距離,横ずれ断層:平面図上の最短距離),(c)震源と既知の活断層との関連性の有無を閾値(本検討では4km,6km,8km)で評価,(d)閾値以内のものを①とし,閾値を超えるものを②として区別,(e)震源メカニズムと当該活断層のメカニズム(タイプ)が矛盾する地震は②に区別,(f)①及び②のデータセットのそれぞれについて,MwとP1pとの関係式を最尤推定法に基づくロジスティック回帰式により同定,(g)①及び②のデータセットのうち地表地震断層の断層変位量が得られている16地震について,Mwと主断層の断層変位量との関係式を最小二乗法に基づき同定.なお,高尾ら(2013)に倣い切片を回帰した.
3.結果及び考察
P1pのロジスティック回帰曲線を次に示す.P1p=ez/(1+ez),z=a+bMw,閾値4kmの場合:①a=-33.652,b=5.168,②a=-31.068,b=4.751,閾値6kmの場合:①a=-39.781,b=6.148,②a=-24.515,b=3.688,閾値8kmの場合:①a=-42.321,b=6.558,②a=-20.912,b=3.102.①のデータに基づくP1pは高尾ら(2013)の回帰式より大きくなり,②は高尾ら(2013)より小さくなることが想定されるところ,実際にいずれの閾値の場合においても,想定と同じ結果が得られた.また,P1pについては,既知の活断層から震源までの距離と相関があることも確認できた.
次に,主断層の断層変位量のMwとの関係式を次に示す.log(MD)=c+0.82Mw,log(AD)=d+0.62Mw,閾値4kmの場合:①c=-5.20,d=-4.70,②c=-5.14,d=-4.77,閾値6kmの場合:①c=-5.15,d=-4.69,②c=-5.32,d=-4.91,閾値8kmの場合:①c=-5.16,d=-4.70,②c=-5.27,d=-4.87.変位量回帰式もP1pと同様に,①のデータに基づく回帰式は高尾ら(2013)の回帰式より大きくなり,②は高尾ら(2013)より小さくなることが想定されるところ,実際には閾値6km及び8kmについては想定と同じ結果を得たものの,4kmでは明瞭な差は認められなかった.
4.結論
PFDHAに必要な各種評価式のうち,主断層に関する評価式について,①活断層の存在が知られている場所で発生した地震と,②累積的な痕跡が無く活断層の存在が知られていない場所で発生した地震を閾値を設定して区別した上で,評価式の再検討を実施した.その結果,主断層が出現する確率(P1p)については,①と②の相違が明確であるとともに,活断層から震源までの距離との間に相関が認められたことから,式を使い分けることが可能であることが判った.したがって,今後,確率論的地震動ハザード解析(PSHA)における領域震源の考え方をPFDHAに応用する場合には,本研究成果を適用することができるものと考える.
なお,変位量評価式については,閾値によっては①と②に差が認められるものの,閾値との明確な相関がみられない.地表地震断層のデータが少なく相関が認められない可能性があるため,今後,より多くのサンプルを収集した上で評価式を検討することが望ましいと考えられる.
参考文献
1)高尾ら,日本地震工学会論文集,第13巻,2013,pp.17-36
2)Youngs, R.R., et al. , Earthquake Spectra, Vol.19, No.1, 2003, pp.191-219
3)地質調査総合センター,活断層データべース,2013
4)東京大学出版会,活断層詳細デジタルマップ[新編],2018