[HGM04-P03] 地すべり崩壊地における土砂の移動とガリーの時系列的発達
キーワード:ガリー侵食、地すべり地、マスムーブメント
ホートンの法則に代表される水系網の特性を理解する研究には、大きく分けて2つのアプローチがある。1つは既存の地形をもとに水系網を記述し、その特性を把握するものである。Schumm(1956)に見られるホートンの法則は、この経験則から導き出された.ただし,このアプローチでは水系網の形成プロセスを直接理解することは難しい。もう一つは、柏谷など(1974)に見られる、実験により水系網を発生させ特性を明らかにするアプローチである。ただし,土層構造などの各種条件を均一化して実験を行っているため,現実の斜面の状況を反映しているわけではない.本研究では,その両者のつなぐことを目的として、水系網が発生していない現実の初生的斜面をフィールドとしてガリーの発達過程を調べ、ホートンの法則との整合性を考察した。
調査地は、石川県金沢市にある第三紀海成層上に2017年11月に形成された新しい円弧状地すべりの発生域の斜面である。地形表面には大小の粒径が淘汰されていない土層が分布している。この斜面における水系網の時系列的な変化を、UAVによるリモートセンシングで調べた。並行して,水系網の発達プロセスを把握するために以下の4つの調査を行った。①地表面に塗料を塗布し降雨の前後における表面の剥離を把握した.②斜面に杭を差し侵食量と堆積量を求めた.③ガリーの横断面型を反復計測し,形状の変化を把握した.④ガリーの内部の土砂の移動を見るために、レンガを用い内部の礫の挙動を記述した。
2018年7月から11月までの調査の結果、水系網は崩壊地の奥まで侵入し、ガリーで覆われた。ホートンの第1及び第2法則について調べた結果、調査地の水系網は調査前後でホートンの第1法則と適合した。一方でホートンの第2法則については適合せず、水路の平均長はそれぞれの次数でほぼ同じであった。水系網の形状は形成初期の平行状から樹枝状へと変化し始める過程が見られた。この崩壊地の地表面は土壌硬度が2~4㎏/㎠ほどと侵食されやすく、頻繁に土砂移動が発生する。また、滑落崖を除き斜面上では侵食と堆積が繰り返し発生した。ガリーに関して、下刻と側方侵食による堆積物中の粒径の大きな礫が抜け落ちる現象が見られた。レンガが最も大きく移動したのは7月から9月までの間で、累積降水量が多い時期であり、側方侵食と礫の抜け落ちが見られたのもこの時期である。崩壊地の内部では、侵食と堆積が頻繁に発生し、ガリー侵食は連続的ではなく間欠的に発生することが分かった。
実際の地形と実験での地形形成を比較した際、実験の場合では常に侵食量が堆積量を上回るように設計してある。一方で実際の地形では、長期的なスパンでは侵食速度の方が堆積速度を上回るものの、地表面の堆積速度を侵食速度が上回るまで水系網の拡張の元となる河川争奪が十分に発生せず水系もう発達の一部が阻害されたからだと考えられる。また、調査中は地すべり発生域の凹地が変化することがなく、リルがそのままガリー化した場合も見られ、水系網の活発な統合が起きなかったことが考えられる。これらを踏まえて、次数の低い谷の長さが小さくならなかったのには、崩壊地の内部の次数の低い谷がより上流に延長したことや、崩壊地内部の微細な高低差によって、2・3・4・次谷の延長が伸びなかったためだとみられる。
参考文献
・柏谷健二・横山康二・奥田節夫 1974 ガリーの発達に関する計測と考察. 地理学評論 47-4: 413-425
・S.A. Schumm 1956. Evolution of drainage systems and slopes in badlands at Perth Amboy, New Jersey. In Geological Society of America bulletin 67: 597-646.
調査地は、石川県金沢市にある第三紀海成層上に2017年11月に形成された新しい円弧状地すべりの発生域の斜面である。地形表面には大小の粒径が淘汰されていない土層が分布している。この斜面における水系網の時系列的な変化を、UAVによるリモートセンシングで調べた。並行して,水系網の発達プロセスを把握するために以下の4つの調査を行った。①地表面に塗料を塗布し降雨の前後における表面の剥離を把握した.②斜面に杭を差し侵食量と堆積量を求めた.③ガリーの横断面型を反復計測し,形状の変化を把握した.④ガリーの内部の土砂の移動を見るために、レンガを用い内部の礫の挙動を記述した。
2018年7月から11月までの調査の結果、水系網は崩壊地の奥まで侵入し、ガリーで覆われた。ホートンの第1及び第2法則について調べた結果、調査地の水系網は調査前後でホートンの第1法則と適合した。一方でホートンの第2法則については適合せず、水路の平均長はそれぞれの次数でほぼ同じであった。水系網の形状は形成初期の平行状から樹枝状へと変化し始める過程が見られた。この崩壊地の地表面は土壌硬度が2~4㎏/㎠ほどと侵食されやすく、頻繁に土砂移動が発生する。また、滑落崖を除き斜面上では侵食と堆積が繰り返し発生した。ガリーに関して、下刻と側方侵食による堆積物中の粒径の大きな礫が抜け落ちる現象が見られた。レンガが最も大きく移動したのは7月から9月までの間で、累積降水量が多い時期であり、側方侵食と礫の抜け落ちが見られたのもこの時期である。崩壊地の内部では、侵食と堆積が頻繁に発生し、ガリー侵食は連続的ではなく間欠的に発生することが分かった。
実際の地形と実験での地形形成を比較した際、実験の場合では常に侵食量が堆積量を上回るように設計してある。一方で実際の地形では、長期的なスパンでは侵食速度の方が堆積速度を上回るものの、地表面の堆積速度を侵食速度が上回るまで水系網の拡張の元となる河川争奪が十分に発生せず水系もう発達の一部が阻害されたからだと考えられる。また、調査中は地すべり発生域の凹地が変化することがなく、リルがそのままガリー化した場合も見られ、水系網の活発な統合が起きなかったことが考えられる。これらを踏まえて、次数の低い谷の長さが小さくならなかったのには、崩壊地の内部の次数の低い谷がより上流に延長したことや、崩壊地内部の微細な高低差によって、2・3・4・次谷の延長が伸びなかったためだとみられる。
参考文献
・柏谷健二・横山康二・奥田節夫 1974 ガリーの発達に関する計測と考察. 地理学評論 47-4: 413-425
・S.A. Schumm 1956. Evolution of drainage systems and slopes in badlands at Perth Amboy, New Jersey. In Geological Society of America bulletin 67: 597-646.