日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2019年5月26日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、池原 研(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、兵頭 政幸(神戸大学 内海域環境教育研究センター)

[HQR05-P13] 鈴鹿市南部におけるMIS5e海成層の分布形態と推定される累積変位量

*佐藤 善輝1 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)

キーワード:MIS5e、珪藻化石、花粉化石、養老-四日市断層帯、布引山地東縁断層帯、地下地質

本研究では,伊勢平野北部に位置する鈴鹿市南部を対象として,既存ボーリングコア資料・試料の解析に基づいて最終間氷期(MIS5e)に堆積した海成層を認定し,その分布形態から鉛直方向における累積変位量を推定した.

伊勢平野は伊勢湾の西岸~南西岸に広がる堆積平野で,平野北部には後期更新世以降に形成された河成・海成段丘が広く発達する(石村,2013など).後期更新世段丘と沖積平野との地形境界には活断層が分布し,北側の養老―四日市断層帯と南側の布引山地東縁断層帯東部とに大別される.鈴鹿市南部では南側から伸びる布引山地東縁断層帯東部と,北側伸びる養老-四日市断層帯が近接するが,両断層帯間の活構造や関係性については,既存研究によって見解に差異があり,はっきりしたことが分かっていない.そこで,本研究では空中写真判読に基づく地形面区分と,既存ボーリング試料の14C年代測定,珪藻化石分析,花粉化石分析を行い,MIS5e海成層を対比基準として地殻変動傾向を推定できないか試みた.

対象地域の後期更新世段丘面は大きく高位,中位,低位の3面に区分される.このうち中位面は標高5~15 mに分布する.御座ヶ池周辺の中位面は東縁部が南東側に撓曲変形し,その基部に断層が存在すると推定される.本研究の中位面は吉田(1987)の旧期中位段丘(tm1),吉田(1984)の神戸段丘(tmk)に相当する.

中位面基部に推定される断層を挟んで東西方向に長さ約1.6 kmの測線を設定し,計11地点の既存ボーリング資料・試料の特徴に基づいて,浅層地下地質を大きく3つのユニット(下位から順にA~C)に区分した.ユニットBはさらに4つのサブユニット(下位から順にB-1~4)に細分される.ユニットAは砂泥互層から成り,泥質部でもN値50以上で固結する.淡水生付着性珪藻が多産することから陸成層であると推定され,鮮新統の東海層群の一部であると考えられる.ユニットB-1はN値10~40の半固結する泥質堆積物から成る.貝殻片を多く含み,汽水~海水生の珪藻化石が多産することから,海成層であると考えられる.さらに,サルスベリ属の花粉化石が多産することから,MIS5eに対比される可能性が高い.ユニットB-2はシルトや礫を含む淘汰の悪い砂層から成り,N値は20~40程度で,粗粒部では50以上となる.層厚は5~10 mである.ユニットB-3はN値10前後の泥質堆積物から成り,淡水生珪藻を多産することから淡水環境で堆積したと推定される.本ユニットからは50,440±760 yrBPおよび53,940 yrBP以上の年代測定値が得られた.ユニットB-4はN値20~50程度の礫層で,中位面に連続すると考えられる.最上部のユニットCは,N値0~5程度の軟弱な泥質堆積物から成り,完新統であると考えられる.

ユニットB-1は断層を挟んだ両側に分布しており,いずれもMIS5e期の海成層と推定される.ユニットB-1上面の標高分布に基づくと,断層西側の段丘上では標高-13.5~-15.5 mに,断層東側の沖積低地下では標高-17.5 m以深に分布する.従って,MIS5e以降の鉛直方向の累積変位量は2 m以上,平均変位速度は0.02 m/kyr以上と見積もることができる.また,ユニットB-3の基底分布からは,累積変位量は6.5 m以上,平均変位速度は0.05 m/kyr以上と見積もることができる.これらの推定値は地表面の変形から推定された千里断層の平均変位速度(0.05~0.21 m/kyr;水谷,2017)とおおむね調和的である.

参考文献
石村大輔(2013)第四紀後期の伊勢湾西岸地域の段丘形成過程と地殻変動.地学雑誌,122,448-471.
水谷光太郎(2017)三重県中部布引山地東縁断層帯東部区間千里断層の活動性.日本地理学会発表要旨集 2017 年度日本地理学会秋季大会発表要旨.
吉田史郎 (1984) 四日市地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).地質調査所.81p.
吉田史郎 (1987) 津東部地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).地質調査所.72p.