日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、大手 信人(京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻)、Gabriel J Bowen(University of Utah)

[HTT18-P06] 窒素化合物の安定同位体比に関する動力学的な基礎検討:ネパールカトマンズの地下水に対するケーススタディ

*横澤 賢1,2西田 継1,3中村 高志1,3尾坂 兼一4 (1.山梨大学大学院、2.流域環境科学特別教育プログラム、3.国際流域環境研究センター、4.滋賀県立大学 環境科学部)

キーワード:地下水、窒素・酸素安定同位体比、硝化、脱窒、混合、分別

人口増加に伴い水需要が増加している途上国地域では、地下水は貴重な水源であるにも関わらず、工業廃水や生活排水、農業活動による窒素汚染が進行している。地下環境では流動や微生物代謝によって窒素化合物の形態や濃度が変化しているため、汚染源の特定が難しくなることは珍しくない。これらの変化を詳細に調べる有効な手段として、安定同位体比を用いた解析が利用されている。しかし、この値自体も環境条件に大きく影響されるため、その理論的な裏付けに関する知見の蓄積が必要とされている。そこで本研究では、ネパールのカトマンズ盆地における地下水汚染を例に、安定同位体比を決定する要因を混合現象と分別現象に分けて定量的に整理・説明することを目的とした。
 解析に使用したデータは、2014年9月から2018年8月までに行われたカトマンズ盆地の井戸水調査で取得した。硝酸の窒素と酸素の安定同位体比に基づいて、汚染様式を大まかに類型化した。次に、硝酸態窒素の安定同位体比に対して希釈曲線と脱窒曲線を作成し、脱窒曲線近傍のサンプルの空間分布を地図上で確認した。最後に、系内で反応物は十分かつ均質に存在すると仮定し、既報の理論を基に、硝酸と水の酸素安定同位体比について硝化と脱窒を組み合わせた動力学的分別モデルを作成した。そして、実測値を説明できるように複数のモデルパラメータを調整することで、各プロセスが硝酸の酸素安定同位体比に与える影響度を確認した。
 解析の結果、硝酸については大気汚染起源が雨水と共に浸透していると思われる地点が確認された。また、脱窒が進行している傾向も確認され、その進行及び発生はカトマンズ盆地全域に及んでいた。さらに、各プロセスにおける同位体分別の大きさは地点および時期で差が見られ、これにはアンモニア酸化、亜硝酸還元、および亜硝酸と水の酸素交換が特に影響していることを示した。