日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、大手 信人(京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻)、Gabriel J Bowen(University of Utah)

[HTT18-P08] 石垣島化石サンゴ年輪を用いた中世気候異常期の海水温および塩分の復元

*阿部 理1森本 真紀2浅海 竜司3中塚 武1,4 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.岐阜大学教育学部、3.東北大学大学院理学研究科、4.総合地球環境学研究所)

キーワード:サンゴ年輪、中世気候異常期

西暦950~1250年は中世気候異常期(MCA)と呼ばれ(Masson-Delmotte et al., 2013)、世界的に温暖な時期と考えられている(Bradley et al., 2003)。特にMCAの開始時期である10世紀後半に大きな気候の変化があったことが、多くの復元記録から示されている。Mann et al. (2009)は10世紀後半に見られる北半球平均気温の上昇と北半球亜寒帯域の海面水温の上昇時期が一致することを見出した。Yan et al. (2011)は西暦1000年頃に、それまでのラニーニャ的気象場からエルニーニョ的気象場へとシフトしたことを示した。東アジアにおいては、Zhang et al. (2008)やGe et al. (2013)らが10世紀後半に夏季モンスーンの活動が活発化し、温暖で湿潤な環境へと変化したことを示した。一方で、Lie et al. (2014)は西暦1000年から1100年にかけて東アジア夏季モンスーンが弱体化したことを示した。また、MCA期に中国南部は乾燥気候であったことを示す報告も存在する(Chen et al., 2015)。
これらの結果は、いずれも西暦1000年前後を境に気候が大きく変化したことを示しているものの、ほとんどを現存する陸上記録に頼っており、海洋の、高時間分解能連続記録はほとんど存在しない。

そこで、本研究では、琉球列島南西部に位置する石垣島南岸の登野城サンゴ礁に埋没していた、体高約5mの化石ハマサンゴ試料を採取し、およそ一か月平均の時間分解能で、約300年間の海水温と海洋塩分の復元を行った。最新部のU/Th年代測定と年輪計数より、MCAの大部分を含む、西暦845~1130年の間生息していたことが明らかとなったサンゴ年輪について、骨格炭酸塩のSr/Caおよび酸素同位体比をそれぞれ約4000試料の分析を実施した。石垣島の現生サンゴ記録、観測水温、観測塩分および海水の酸素同位体比からSr/Caと海水温の関係式、酸素同位体と海水温および海水酸素同位体比の関係式を構築し、Abe et al. (2009)によって得られた海水酸素同位体比と塩分の関係式を用いて、得られた化石サンゴのSr/Caおよび酸素同位体比から9~12世紀の水温と塩分を復元した。

その結果、水温は期間全体を通して、夏季は現代よりも約2℃低く、冬季は現代よりも約1℃高いことがわかった。
また、西暦1040年を境に明瞭に上昇したことがわかった。その上昇量は年平均で0.9℃、夏季平均で0.7℃、冬季平均で約1.1℃であった。また、塩分も西暦990年を境に有意に上昇したことが明らかとなり、その上昇量は年平均、夏季平均、冬季平均いずれも0.8であった。塩分は期間全体を通して現代よりも有意に高かったが、塩分の絶対値に関しては検討の余地が残っている。

本研究で見られた西暦1000年頃から1130年にかけての水温と塩分の上昇は、Liu et al. (2014)が示した11~12世紀のEASMの弱体化と調和的であった。彼らはこの時期に太陽活動が低下したことをトリガーとして、WPWP域の海水温が低下し、それによってEASMが弱体化したと説明した。本研究海域でも梅雨期の降水量の低下が塩分の上昇をもたらすとともに、雲量の低下によって海水温の局所的な上昇につながったと考えられる。また本研究結果は、Ge et al. (2013)が示した、10世紀後半の中国の温暖化、Chen et al. (2015)が示した中国南部の乾燥化とも一致していた。

発表では海水温と塩分の周期的変動についても考察を行う。