日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] 地理情報システムと地図・空間表現

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)

[HTT23-P05] 津波被災地の介護サービス事業所職員がもつ経験による知識からみた災害情報共有のあり方

*井上 明莉沙1若林 芳樹1 (1.首都大学東京大学院都市環境科学研究科)

キーワード:災害情報、津波、福祉施設、ハザードマップ、大洗町

2011年に発生した東日本大震災の教訓を受けて,災害時に支援を必要とする高齢者を多く抱えた介護サービス事業所の避難計画の改善が喫緊の課題となっている.本研究は,茨城県大洗町を対象として,介護サービス事業所の職員がもつ災害知を面接調査によって明らかにし,災害情報共有の現状と課題を検討することを目的とする.

対象地域は,東日本大震災時に津波の被害を受けた茨城県東茨城郡大洗町である.調査対象者は,大洗町福祉課介護保険係に登録されている介護サービス事業所のうち居宅介護支援と訪問介護,訪問介護を除いた事業所(10事業所)で,調査許可が得られた5事業所の震災時対応責任者である.調査方法は半構造化面接を行った.

調査の結果,介護サービス事業所の避難行動は施設立地に関係するが,どのような避難行動をとるべきかを把握しているかと施設立地との関連性は小さいことが明らかになった.また行政が発行する津波ハザードマップの情報や各施設のマニュアルについて職員は信頼しておらず,職員が有する災害知を最も信頼していることが明らかとなった.むしろ震災時対応責任者が考える津波浸水範囲においては,東日本大震災の経験の有無によって大きな差がみられる.東日本大震災を経験した震災時対応責任者が考える津波浸水範囲は,全体的には施設立地による大きな差はみられないものの,細部において施設立地による差が現れた.震災時対応責任者が考える避難危険地域については,施設の立地場所によって震災時対応責任者が考える危険な場所は異なるが,実際は自然的要因と人為的要因の二つに分けられることが分かった.これらの結果から,津波浸水範囲と同様に,知識の差は東日本大震災の経験の有無が大きく関わっている.

本研究で明らかになったのは,震災時の対応責任者は災害知をもとに今後も避難意思決定や避難行動をする可能性が高いが,他の施設間での災害知の共有化・修正・継承は十分に行われていないことである.その原因としては,介護職員の離職率の高さや,日々の対応が多忙で災害時のことまで考える余裕がないこと,夜間時の災害の対応など事業所単体では災害対応できる範囲が限られてくること,同業他社間での関係性の希薄さなどが考えられる.以上の結果から,今後は,災害を経験した職員が経験していない職員への知識の継承ないしは同業他社間での知識の共有と修正が課題として指摘できる.とくに,介護サービス事業所の職員のもつ災害知と専門家がもつ専門的な知識,自治体がもつ知識を共有し,一方的ではない知識の更新を継続することが重要になる.