日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS02] 地球掘削科学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:山田 泰広(海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター)、針金 由美子(産業技術総合研究所)、黒柳 あずみ(東北大学学術資源研究公開センター東北大学総合学術博物館)、山口 耕生(東邦大学, NASA Astrobiology Institute.)

[MIS02-P05] 熊本地震震源断層掘削コアを用いた熱物性測定

*佐野 暉1林 為人1渋谷 奨1,2神谷 奈々1杉本 達洋1石塚 師也1林 愛明3 (1.京都大学大学院工学研究科、2.地圏総合コンサルタント、3.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:掘削孔、熱物性、温度

地球科学の分野では、地下の温度構造を理解することは重要である。地下の温度構造を決定するのは地殻熱流量と地層の熱伝導率であるため、地下深部から採取される岩石試料を用いて、熱伝導率ならびに熱拡散率、比熱を測定する必要がある。2017年から2018年にかけて熊本地震本震の震源断層である布田川断層を貫くように掘削された最大深度約700 mの掘削孔内の温度を測定したところ、明らかな温度異常が見られた(林ほか, 2019 JpGU)。この温度異常の原因を解明することは、阿蘇火山帯に位置する当該地域の地下温度構造を理解するだけでなく、地震メカニズムの更なる解明にもつながると期待される。そこで、当該掘削孔の岩石コア試料を用いて、深度約300~700 mに分布する地層を構成する主要な岩種の熱物性を測定し、この温度構造の異常を熱物性の観点から考察した。

 熱物性測定用の試料として、熊本県益城町にある布田川断層掘削孔の前述深度区間において、主要な岩種から計20個のコア試料を採取した。このコアのサンプリングは、掘削された岩種のうちなるべく多くの種類を選びつつ、サンプリングした深度が大きく開きすぎないように留意して行った。なお、サンプリングした深度区間の主な岩種は、300 m~353 mが基底堆積物、353 m~514 mが安山岩、514 m~562 mが砂・礫岩、562 m~700 mが凝灰岩である。熱物性測定に用いた全岩石試料の基本物性として、密度と有効空隙率を測定した。その結果、含水飽和状態の湿潤密度は、基底堆積物層が1.57 g/㎤~2.02 g/㎤、安山岩層が2.31 g/㎤~2.95 g/cm3、砂・礫岩層が2.29 g/㎤~2.41 g/cm3、、凝灰岩層が1.99 g/㎤~2.29 g/cm3となった。また、有効空隙率を測定したところ、基底堆積物層が40.0 %~47.8 %、安山岩層が3.1 %~25.5 %、砂・礫岩層が21.6%~29.4 %、凝灰岩層が19.4 %~35.8 %となり、非常に大きく変動することが判明した。

 熱物性の測定には、非定常面熱源法(ホットディスク法)を用いた。ホットディスク法において、2つの試料でセンサーを挟んで測定する手法は、1つの試料を用いる手法より精度がよいと考えられるため、コア試料を3 cmの厚さに切り分け、1つのコアから4つのサブサンプルを取得、隣り合う2つのサブサンプルで1回の測定を行った。1つのコアにつき3回の測定を行い、平均値をそのコアの熱物性値とした。また、熱物性の測定は含水飽和と完全乾燥状態でそれぞれ行った。熱伝導率の測定結果は、基底堆積物層が0.88 W/(mK)~1.10 W/(mK)、安山岩層が1.00 W/(mK)~1.81 W/(mK)、砂・礫岩層が1.26 W/(mK)~1.31 W/(mK)、凝灰岩層が0.96 W/(mK)~1.27 W/(mK)となった。この値を用いて、温度構造に関する考察を行った。また、熱拡散率、比熱の測定結果は、基底堆積物層が0.26 ㎡/s~1.28 ㎡/s, 0.85 J/(g・K)~3.46 J/(g・K)、安山岩層が0.48 ㎡/s~0.91 ㎡/s, 1.36 J/(g・K)~2.60 J/(g・K)、砂・礫岩層が0.49 ㎡/s~0.66 ㎡/s, 1.95 J/(g・K)~2.70 J/(g・K)、凝灰岩層が0.40 ㎡/s~0.99 ㎡/s, 1.40 J/(g・K)~2.93 J/(g・K)となった。

 林ほか(2019 JpGU)が行った掘削孔内の温度測定結果によれば、深部の約430~650 mの区間では、深くなるにつれ地層の温度がほぼ直線的に高くなる温度構造が認められ、その地温勾配は55 ℃/km程度であった。採取したコアの熱伝導率を、そのコアと同じ地質の層厚によって重みづけして平均熱伝導率を計算したうえ、フーリエの法則(j=λgradT、jは熱流量、λは熱伝導率、gradTは地温勾配)を用いて、当該深度範囲における地殻熱流量を求めた。さらに、当該掘削孔の深度範囲では、この熱流量以外の熱源がないと仮定し、かつ、熱伝導の定常状態として、同じフーリエの法則を用いて、実測した最深の温度からスタートし、各地層の熱伝導率を用いて、温度の深度プロファイルを試算した。
 実測の温度プロファイルは深度約310~430 mの区間においては、ほぼ一定であり、その地温勾配が約1 ℃/kmという異常な温度分布の結果が得られた(林ほか, 2019 JpGU)。450 m以深では、試算の温度構造は実測の温度構造とよく一致しており、その深度区間では用いた仮定が正しいことが示唆された。一方、深度430 mと310 m付近では、熱物性値からの試算では、実測値の急激な温度勾配の変化を再現できなかった。すなわち、この温度異常は熱物性値の変化によるものではないと確認された。現段階では、この温度異常の原因として、地下水流動に伴う熱の移動の可能性があると推測される。今後は、さらに多くのコアの熱物性の測定を進め、より正確な熱物性の深度プロファイルを構築するとともに、この温度異常の原因究明に貢献したい。