日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS07] アストロバイオロジー

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:薮田 ひかる(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、深川 美里(国立天文台)、藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)

[MIS07-P10] 模擬星間氷への粒子線照射による高分子量アミノ酸前駆体のキャラクタリゼーション

*倉本 想士1佐藤 智仁1福田 一志2小栗 慶之2近藤 康太郎2柴田 裕実3癸生川 陽子1小林 憲正1吉田 聡4 (1.横浜国立大学、2.東京工業大学、3.大阪大学、4.量子科学技術研究開発機構)

キーワード:化学進化、星間氷、ストレッカー反応、アミノ酸前駆体

地球上での生命誕生に地球外有機物が重要な役割を果たしたことが示唆されている。宇宙から供給されたアミノ酸前駆体の種類によって原始地球上での化学進化の道筋が大きく変わると考えられる。隕石(炭素質コンドライト)の抽出液中にアミノ酸が検出されており[1]、その多くは加水分解してアミノ酸となるアミノ酸前駆体であるが、その構造に関する研究はほとんどないが、アミノ酸生成機構としてストレッカー合成を想定した場合、前駆体(中間体)はアミノニトリル類かアミノ酸アミドとなる。地球外アミノ酸前駆体の生成の場としては分子雲環境や太陽系小天体が考えられるが、本研究では分子雲環境模擬実験により生じるアミノ酸前駆体の解析を行い、その結果に基づいて原始地球におけるアミノ酸前駆体からの新たな化学進化のシナリオを考察した。

Pyrexガラス製容器にCO, NH3, H2Oの混合ガスを封入し、これらに東京工業大学のタンデム加速器を用いて2.5 MeVの陽子線2 mC を照射した。以後、この照射生成物をCAWと呼称する。CAWは陽イオン交換HPLCを用いてストレッカー合成中間体(アミノアセトニトリル、グリシンアミド)の含まれる画分とそれ以外の画分を分取した。分取したサンプルを酸加水分解した後、アミノ酸分析をした。さらに、限外ろ過(分画分子量3000)およびゲルろ過HPLC法(カラム:Shodex OHpak SB-802.5 HQ)によりCAWの分子量を推定するとともに、ESI-TOF-MSによる質量分析も行った。

CAW分取実験では、ストレッカー合成中間体画分からのグリシン生成量は少なく、ストレッカー合成以外でのグリシンの生成が多いことが分かった。この結果から、星間で生成されるアミノ酸前駆体の中には、ストレッカー合成中間体のような低分子量化合物は少ないと考えられる。次に、限外ろ過実験の結果から、模擬星間物質は分子量数千の高分子量アミノ酸前駆体を多く含んでいることが示唆された。また、ゲルろ過実験ではタンパク質スタンダードとの比較により、CAWの推定分子量は6000以上であることが示唆された。また、ESI-TOF-MSによるCAWの質量分析により、m/z = 1000以上のピークが確認された。これらの結果から、星間ではCOなどの小分子から高分子量アミノ酸前駆体が直接生成されている可能性が強く示唆された。現在、模擬星間氷への重粒子線照射生成物[2]中のアミノ酸前駆体のキャラクタリゼーションも試みている。

[1] K. A. Kvenvolden et al., Nature 228, 923 (1970).

[2] K. Kobayashi et al., Electr. Commun. Jpn. 91, 293 (2008).