日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] ジオパーク

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

[MIS08-P06] おおいた豊後大野ジオパーク, 軸丸棚田における土地利用と植生との関係

*岩里 実季1吉岡 敏和2 (1.豊後大野市役所商工観光課、2.おおいた豊後大野ジオパーク推進協議会)

キーワード:軸丸棚田、日本の棚田百選、植生、土地利用、耕作放棄地、おおいた豊後大野ジオパーク

軸丸棚田(大分県豊後大野市緒方町)はおおいた豊後大野ジオパーク内に位置し, 大野川と緒方川に挟まれた丘陵地帯に成立する棚田で, 日本の棚田百選の一つに選定されている. この丘陵地帯の基層には大野川層群, 阿蘇3および阿蘇4火砕流堆積物が存在し, その地質的特徴により, 浅く広い谷が形成されていた. かつては, 谷頭の湧水点から引いた水を利用し, 谷底部で水田が開削されたと考えられるが, 大正三年(1914), 富士緒井路(用水路)が通水したことで水田面積が拡大し, 現在の棚田景観となった.
この棚田は人為的に作られた景観ではあるが, 尾根や谷が入り組んだ地形に加え水が豊富にあることから豊かな植生があるのではないかと言われていた. そこで実際にどのような植物が生育しているのかを詳細に把握するために, 以下のような調査を実施した.
調査は軸丸北棚田群を対象とした. 軸丸棚田の現状を把握するために, 国土地理院撮影の空中写真(2015年撮影)及び1/25,000現存植生図(環境省生物多様性センター)を用いて土地利用・植生図を作成した. 作図にはQGIS(QGIS Development Team 2018)を使用した. 軸丸棚田に生育する植物種を把握するために, ルートセンサス法による植物調査を6~9月に実施した. 軸丸棚田内の市道と農道を踏査し, 生育が確認できた種を記録した.
作成した土地利用図と地形図を比較した結果, 丘陵地帯の尾根にはアラカシの自然林に加えてスギやクヌギの植林が広がり, 緩斜面や谷部には水田が開削されていた. ただし, 谷頭と急斜面では耕作放棄水田が多く確認された.
植物調査の結果, シダ植物17種, 木本85種, 草本179種の計281種の植物を記録した(未同定種を除く). 一般的な丘陵地帯に生育するコナラやヤブツバキ, フユイチゴ, アキノキリンソウなどがアラカシの自然林やスギ・クヌギの植林等で確認された. また, 畦畔には環境省絶滅危惧Ⅱ類及び大分県絶滅危惧IA類に指定されているミズオオバコや在来のタカサブロウ, ホタルイなどの水田植物を加えた106種が確認された. 他にも植栽種のソメイヨシノやアジサイ, ヒガンバナ等も確認された.
今回の調査の結果, 軸丸棚田では丘陵地帯の植物と水田植物の両方が複雑な地形の中で見られたことから, 棚田特有の植生が展開されていることがわかった. 一方で, 谷頭や急斜面では耕作放棄地が広がり水田植物の減少がみられた.
結果的に, 棚田特有の豊かな植生を維持するためには, 棚田景観の維持が必要であることに気づかされ, 棚田で耕作を続けていく難しさを垣間見た. これらは, 早急に解決できる問題ではないが, 引き続き植生についてはモニターする必要がある. そのためには, おおいた豊後大野ジオパークの構成要素の一つとして監視, 保全の対象にすることも一つの方策であると考える.