日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] ジオパーク

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

[MIS08-P07] 阿蘇ユネスコ世界ジオパークにおけるアウトリーチ

*鍵山 恒臣1渡辺 一徳1池辺 伸一郎1石松 昭信1豊村 克則2兒玉 夏子1高森 秀平1宮北 志野1 (1.阿蘇ジオパーク推進協議会、2.阿蘇火山博物館)

キーワード:阿蘇ユネスコ世界ジオパーク、アウトリーチ、SNS

阿蘇ユネスコ世界ジオパークが再認定審査を受けるに際して、課題をクリアするためのアクションプランを作成した。その中の1つは、ジオパーク内外への情報発信の強化であった。一昨年までの活動においては、2016年の熊本地震や阿蘇火山の噴火などによる災害の記録の収集を行い、それらの結果や災害からの復興の過程を発信してきた。昨年は、これらの活動に加えて、ジオガイドによるツアーの内容にこれらの成果を反映させるとともに、災害の要因となる地学現象に関する研究成果を収集し、その成果をSNSや教育活動に加える取り組みを行ってきた。以下にそのいくつかを報告する。

 ジオガイドによるツアーにおいて、地震や火山噴火の影響を説明の内容に加えていった。立野峡谷ジオサイトでは、この地域に大分-熊本構造線の一部である布田川断層が走っており、繰り返される断層運動とその後の河川侵食によって阿蘇カルデラの外輪西壁が破壊されて今日の立野峡谷の景観を作っていること、阿蘇の神話においても地震の発生を示唆する言い伝えがあること、今回の熊本地震でも同様の活動があったことなどを加えている。内牧温泉ジオサイトでは、熊本地震によって温泉が出なくなる災害が発生したが、調査を行った結果、地震によって生じた地層のずれによって温泉井が破壊されたことが明らかとなり、温泉の修復ができたことなどがツアーにおいて紹介されている。中岳ジオサイトでは、2016年10月のマグマ水蒸気爆発による噴石の飛散状況などが解説に加えられている。環境省が国立公園に設置している看板の説明についても、研究成果が反映された内容になっている。

 教育活動においても最近の調査の成果を繰り込んだ活動を行った。阿蘇中央高校では、高校1年生に必修科目として「阿蘇ジオパーク学」を開設している。この授業は、ジオパーク関係者が講師として参加し、阿蘇の火山活動、地震活動、震災からの復旧工事、阿蘇の観光を拡大するための工夫、草原の維持などのメニューを紹介した。生徒たちは、前期に得た知識をもとに後期に自主的な調査を行い、その結果を発表している。

 阿蘇火山博物館の展示内容においても、研究機関等の協力を受け、最近の研究成果を反映した展示や、火口映像・火山観測データのリアルタイム表示など、低年齢者にも興味を持ってもらえる展示に更新している。手作りの地震計を揺らすとディスプレイに波形が表示される展示は、たいへん好評である。

 SNSによる情報発信では、フェイスブックによる情報発信に注力し、情景写真、地域で行われる情報のリンク、地球科学的側面からの解説、防災に関する情報などを発信した。発信の内容別に「いいね」の数の分析をおこなった結果、情景写真については300~400程度、地域の情報には100前後、地球科学的解説には100~300程度、防災情報には100程度の「いいね」がほぼ定常的に得られていることがわかり、それぞれの来訪者層の興味に応じて「いいね」が押されていることが明らかとなった。現在では、これらのバランスを考慮して発信する内容を調節している。

 「いいね」の数の多い情景の写真についても、ただきれいというだけで終わるのではなく、たとえば米塚の写真とともに、「ゆったりとした草原の風景がなぜ生まれたのか」という問題設定の中から、粘性率の低い玄武岩質の溶岩がこの地域を流れたことによって緩傾斜面が造られていることを、産総研が公開している火山地質図を引用しつつ紹介している。こうした紹介を通して、より専門的な研究成果が身近に発信されていることを知らせて、一般の人が親しめるきっかけを提供している。

 また、阿蘇火山の活動状況は、たまに放送されるニュースだけによると、大げさに報道され、必ずしも本質的な理解にはなっていないと思われるので、気象庁が公表する活動状況に関する解説情報について、専門家はどの部分に注目して情報を出しているのかなどを解説する取り組みを行っている。こうした解説はやや難しい印象を与えているが、生の情報を理解したいと考えている人たちには、支持されている。

 こうした取り組みは、まだ始めたばかりであり、今後、ジオパークが指定しているすべてのジオサイトに関する情報提供を行うこと、来訪者の疑問に答える情報発信に近づけていく努力が必要である。