[MIS11-P18] 酸化的古火星環境における温暖化:過酸化水素の可能性
キーワード:火星、液体の水、大気
近年、ローバーによる火星探査から、過去30-40億年前の古火星環境の情報が残されているゲイルクレーターで、高濃度の酸化マンガンが検出された(Lanza et al., 2016)。これは、酸化マンガンが沈殿した時代の古火星環境には、液体の水と非常に酸化的な大気が共存していたことを示唆している。一方で、その頃の太陽は現在よりも25%ほど暗いと推定されている。大気モデルを用いた検討から、古火星が液体の水を維持する温暖な環境であるためには、二酸化炭素・水だけでない温室効果ガスが大気に存在していたと考えられている(Kasting 1991など)。しかしながら、これまでの研究には、極めて酸化的な大気成分によって古火星の表層環境が273K以上に温められる可能性を示した検討は存在しない。これまで、極めて酸化的な大気成分の一つである過酸化水素は、火星の表層を極度に酸化させていった物質として着目されてきた。ただし、その量が現在の火星大気で極微量であるために温室効果気体としては着目されてこなかった。過酸化水素は光化学的に不安定な物質であるが、その1分子あたりの遠赤外の吸収能は非常に強く、仮に古火星大気が非常に酸化的であった場合、過酸化水素が地表面を温暖化させた可能性がある。
本研究では、Line by Lineの輻射輸送計算を用いた鉛直1次元大気のエネルギーバランスモデルに基づき、二酸化炭素大気中の過酸化水素の量をパラメータとし、古火星の表面温度がどれだけ上昇するか推定した。まず、古火星の大気中に飽和蒸気圧分の過酸化水素があったと仮定した場合、表面温度は最大でも3Kしか上昇しないことが分かった。一方で、大気上層では凝縮核が少ないために過酸化水素が過飽和状態にあった可能性が考えられる。過酸化水素が高度に依らず1ppmの濃度で含まれている場合、2bar以上の大気で表面温度が273Kを超える。また、10ppmの場合は1barの大気量で表面温度が273Kを超えることが可能であった。過酸化水素を含まない場合と比較すると、2barの大気については、濃度が1ppmの場合には約40K、10ppmの場合には約80Kの表面温度上昇がおきた。発表では、光化学反応などによる過酸化水素生成過程及び凝縮核の数密度やサイズなどに依存する凝縮過程によって、古火星の大気中の過酸化水素量が過飽和となりうるかも含めて議論する。
本研究では、Line by Lineの輻射輸送計算を用いた鉛直1次元大気のエネルギーバランスモデルに基づき、二酸化炭素大気中の過酸化水素の量をパラメータとし、古火星の表面温度がどれだけ上昇するか推定した。まず、古火星の大気中に飽和蒸気圧分の過酸化水素があったと仮定した場合、表面温度は最大でも3Kしか上昇しないことが分かった。一方で、大気上層では凝縮核が少ないために過酸化水素が過飽和状態にあった可能性が考えられる。過酸化水素が高度に依らず1ppmの濃度で含まれている場合、2bar以上の大気で表面温度が273Kを超える。また、10ppmの場合は1barの大気量で表面温度が273Kを超えることが可能であった。過酸化水素を含まない場合と比較すると、2barの大気については、濃度が1ppmの場合には約40K、10ppmの場合には約80Kの表面温度上昇がおきた。発表では、光化学反応などによる過酸化水素生成過程及び凝縮核の数密度やサイズなどに依存する凝縮過程によって、古火星の大気中の過酸化水素量が過飽和となりうるかも含めて議論する。