[MIS14-P29] 西南極アムンゼン海ポリニヤの海氷生産量変動メカニズム
キーワード:南極海、沿岸ポリニヤ、アムンゼン海ポリニヤ
沿岸ポリニヤでは膨大な量の熱が海洋から大気に奪われ、盛んに海氷が生産される。この結氷の際に大量の低温で高塩の高密度水が排出される。南極海のいくつかの沿岸ポリニヤでは、この高密度水が南極底層水の主なソースであることが示されている。冬季の沿岸ポリニヤは現場観測が非常に難しい海域であり、沿岸ポリニヤの形成・変動メカニズムはよくわかっていなかった。しかし10年ほど前から、人工衛星に搭載されるマイクロ波放射計による輝度温度を用いて沿岸ポリニヤ域を日毎に検出しそこでの薄氷厚を見積もるアルゴリズムが開発され、沿岸ポリニヤの詳細な分布と変動が分かるようになってきた (例: Tamura et al., 2007; 2008)。空間分解能の良いマイクロ波放射計AMSR-E (2003-2011) ならびにAMSR2 (2012-2017) によるデータ(空間分解能は約6 km)を用いることにより、より詳細な沿岸ポリニヤの空間分布が明らかになってきた。例えば南極海では、多くの沿岸ポリニヤが定着氷(岸や座礁した氷山にくっついて形成される動かない海氷域)の西側に存在しており、定着氷が沿岸ポリニヤの形成と変動に密接に関わっていることが示唆された (Nihashi and Ohshima, 2015; Nihashi et al., 2017)。西南極に存在するアムンゼンポリニヤは、南極海で3番目に海氷生産量が大きな沿岸ポリニヤであり、長く沖に張り出した定着氷の西側に形成される沿岸ポリニヤである。すぐ側に存在するスウェイツ氷河は、近年急激に融解していることが示唆されている (Rignot et al., 2008; Milio et al., 2019)。南極海でよく見られる沖に大きく張り出した定着氷の形成には、座礁した氷山が重要な役割を果たしている (Fraser et al., 2012)。氷山の起源は南極の氷河・氷床であり、これらの急激な融解は定着氷やさらには隣接して存在する沿岸ポリニヤの形成・分布にも影響を及ぼす可能性がある。
本研究では、アムンゼン海ポリニヤの海氷生産量と気象データならびに定着氷の比較を行い、生産量の変動要因を調べた。海氷生産量はAMSR-EならびにAMSR2による日毎の薄氷厚を用いた熱収支計算から得られたもの (Nihashi and Ohshima, 2015; Nihashi et al., 2017) を用いた。定着氷もこれらの研究で薄氷厚と同じセンサーで月毎に検出されたものを用いた。AMSR-Eの期間に限られるが、薄氷の種類 (active frazilとthin solid ice) を考慮した改良型薄氷厚アルゴリズムによる生産量 (Nakata et al., 2019) も用いた。気象データはERA5を用いた。
日毎・月毎どちらのデータを用いても、海氷生産量は風速と比較的強い正の相関係数 (0.54-0.73) を示した。この比較での風速は単純な風速ではなく、風を1°ずつ360°投影したもののうち、最も相関係数が高くなるものを用いた。最も相関係数が高い風成分は、単純に陸地の沿岸線に対して沖(北)向きではなく、それより西寄りに向かう方向、すなわち陸地と定着氷で構成される沿岸線に対して沖向きの風速成分であった。この結果は、これまでAMSR-Eのみのデータを用いた解析 (Nihashi and Ohshima, 2015) を支持するものである。薄氷の種類を考慮した海氷生産量を用いた場合、最も相関係数が高くなる風成分は、active frazilが卓越する場合はより西向き(定着氷から吹いてくる)方向で、thin solid iceが卓越する場合はより北向き(大陸から吹いてくる)方向であった。またactive frazilは、陸地と定着氷の両方に沿って形成されるというよりは、定着氷沿いに形成されるケースが多いことが示された。冬季間(5−8月)で平均した気温,風速,定着氷の張り出しを用いて、海氷生産量に対する重回帰分析を行った。データ数は限られるが、R=0.77でこれらのパメータから生産量を説明することができた。この回帰直線を用いると、衛星データが存在する以前の海氷生産量を気象データからある程度再現できると考えられる。以上の結果は、アムンゼン海ポリニヤの形成・変動に定着氷が重要な役割を示唆しているものであり、今後も南極海の沿岸ポリニヤならびに定着氷を継続的にモニタリングしていくことは、気候変動の影響を理解していく上でも重要である。
本研究では、アムンゼン海ポリニヤの海氷生産量と気象データならびに定着氷の比較を行い、生産量の変動要因を調べた。海氷生産量はAMSR-EならびにAMSR2による日毎の薄氷厚を用いた熱収支計算から得られたもの (Nihashi and Ohshima, 2015; Nihashi et al., 2017) を用いた。定着氷もこれらの研究で薄氷厚と同じセンサーで月毎に検出されたものを用いた。AMSR-Eの期間に限られるが、薄氷の種類 (active frazilとthin solid ice) を考慮した改良型薄氷厚アルゴリズムによる生産量 (Nakata et al., 2019) も用いた。気象データはERA5を用いた。
日毎・月毎どちらのデータを用いても、海氷生産量は風速と比較的強い正の相関係数 (0.54-0.73) を示した。この比較での風速は単純な風速ではなく、風を1°ずつ360°投影したもののうち、最も相関係数が高くなるものを用いた。最も相関係数が高い風成分は、単純に陸地の沿岸線に対して沖(北)向きではなく、それより西寄りに向かう方向、すなわち陸地と定着氷で構成される沿岸線に対して沖向きの風速成分であった。この結果は、これまでAMSR-Eのみのデータを用いた解析 (Nihashi and Ohshima, 2015) を支持するものである。薄氷の種類を考慮した海氷生産量を用いた場合、最も相関係数が高くなる風成分は、active frazilが卓越する場合はより西向き(定着氷から吹いてくる)方向で、thin solid iceが卓越する場合はより北向き(大陸から吹いてくる)方向であった。またactive frazilは、陸地と定着氷の両方に沿って形成されるというよりは、定着氷沿いに形成されるケースが多いことが示された。冬季間(5−8月)で平均した気温,風速,定着氷の張り出しを用いて、海氷生産量に対する重回帰分析を行った。データ数は限られるが、R=0.77でこれらのパメータから生産量を説明することができた。この回帰直線を用いると、衛星データが存在する以前の海氷生産量を気象データからある程度再現できると考えられる。以上の結果は、アムンゼン海ポリニヤの形成・変動に定着氷が重要な役割を示唆しているものであり、今後も南極海の沿岸ポリニヤならびに定着氷を継続的にモニタリングしていくことは、気候変動の影響を理解していく上でも重要である。