日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 火山噴煙・積乱雲のモデリングと観測

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:佐藤 英一(気象研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)、前坂 剛(防災科学技術研究所)

[MIS16-P02] 火山灰の移流拡散堆積過程における逆問題の数理的構造

*石井 憲介1小屋口 剛博2 (1.気象研究所火山研究部、2.東京大学地震研究所)

キーワード:逆問題、特異値、特異値分解、噴煙柱、降下火砕物、火山噴火

火山噴火時の噴煙柱から離脱する火砕物の鉛直濃度分布を正確に求めることは重要である。例えば、気象庁の降灰予報では、移流拡散モデルによって地表における降下火砕物分布の予測計算を行っているが、その予測精度は初期値である火砕物の鉛直濃度分布に大きく左右される。また、解析や観測による火砕物の鉛直濃度分布の高精度な推定は、噴煙柱の力学モデル(例えば、Wood&Bursik1991)の検証や理解にも貢献する。

本研究で対象とする力学系は、噴煙柱の各高度から放出された火砕物が風によって運ばれ拡散しながら終端速度によって落下し最終的に地表に堆積する系とした。このとき、噴煙柱から離脱する火砕物の鉛直濃度分布から地表の降下火砕物分布を計算するモデルは線形の移流拡散モデルとなる。従って、降下火砕物観測から火砕物の鉛直濃度分布を求めるために解くべき問題は、線形の逆問題に帰着する。そこで本研究では、降下火砕物分布(観測)と火砕物の鉛直濃度分布(モデルパラメータ)の関係を調べるために、逆解析手法の一つである特異値分解を用いて、数値実験を行った。数値実験では、疑似的な観測データを作成し、誤差の伝搬を含めて、この問題の数理的な構造を調べた。

 この力学系における逆問題は、降下火砕物の観測数を十分に多くとれば「優決定問題」となる。しかしながら、特異値解析によると、この逆問題は数理的に「不適切」な性質を持ち、多数のモデルパラメータを推定することが困難である。すなわち、上層から放出された火砕物ほど、拡散の影響によって情報を失いやすいという特徴を反映して、観測誤差を拡大させる小さな特異値が生じやすくなる。その結果、観測誤差に支配された非物理的なモデルパラメータが推定されてしまう(過剰適合)。この問題を回避するには、小さな特異値を持つ特異ベクトルを何らかの方法で解析値から除外する必要がある。そこで我々は、「正則化」と「鉛直座標の最適化」をおこなった。正則化とは、小さな特異値を持つ特異ベクトルの成分を考慮しない方法であり、例えばPicardの条件を用いた正則化やTikhonov正則化等がある。一方、鉛直座標の最適化は、小さな特異値の発生を回避することを目的として、格子点の間を線形補完することによりモデルパラメータの数を減らす方法である。我々は、これらの方法を組み合わせて用いることによって、過剰適合を適切に抑えた近似解を得ることができた。

 今後、我々はこの逆問題について、より効率的かつ高精度なモデルパラメータ推定を行うとともに、本研究で蓄積した知見を噴煙ダイナミクスモデルと組み合わせることで、マグマ噴出率等のより基本的な噴火パラメータを推定したいと考えている。本発表では、これらの取り組み状況や今後の展望について報告する。