日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

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[M-IS17] 歴史学×地球惑星科学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、岩橋 清美(国文学研究資料館)

[MIS17-P05] 市民参加による歴史史料からの地球惑星科学現象サーベイワークショップ

*玉澤 春史1,2岩橋 清美3 (1.京都大学防災研究所、2.京都市立芸術大学美術学部、3.国文学研究資料館)

キーワード:オープンサイエンス、異分野連携研究、科学への公衆関与

歴史史料から自然災害や天気,あるいは天文現象といった地球惑星科学に関する現象を抜き出して利用するためには,史料を実際に読み,語句を正確に抜き出すことが最初に必要な作業である.特に日本の史料はくずし字で書かれているものが大量に存在し,大量のデータからいかに正確な情報を引き出すかが必須である.大量のデータを取り扱う場合には、専門家に加えて,内容に興味・関心をもつ市民層の協力は欠く事が出来ず,近年のオープンサイエンスにおける市民参加型研究に対する関心もさらに高まっている。こうした市民参加型研究の一例としては、インターネットを利用して歴史災害史料の興味を持つ市民に広く古文書解読を呼びかける「みんなで翻刻」プロジェクトが先行例としてある(加納 2017).

 国文学研究資料館においても、歴史史料を用いた宇宙天気研究の一環として,2016年より3回にわたり市民参加型ワークショップ「古典オーロラハンター」を実施してきた(岩橋,玉澤 2018).歴史学・天文学双方の専門家と一緒に,実際に古典籍や古記録に触れて天文現象を探し出すというワークショップは,単なるアウトリーチとしての側面だけでなく,近年、活発化する市民参加型研究が、歴史史料を利用した自然科学研究にどのように寄与できるのかを実証する試みでもあった。本報告ではその取り組みの成果を発表し、今後の地球惑星科学における市民参加の可能性と意義について考えてみたい。

2018年11月には第4回となる本事業を京都大学附属図書館の全面的な協力のもと、「古典オーロラハンターIN京都」と銘打ち、京都大学で開催した。そこでは,調査対象を天文現象に限らず、地震をはじめ洪水・旱魃といった天変地異現象に広げ,地球惑星科学・防災研究へと拡大して実施した.さらに,当日は歴史史料を用いたオーロラや地震の最新研究についての講演や「みんなで翻刻」のデモンストレーションも行った.また,新たな試みとして日記史料からの天気情報の抽出し、データ化する作業も行った.


当日の参加者のアンケートを見ると,過去三回の参加者に比して天文学への興味関心が高い参加者が多い傾向がうかがえる.参加のきっかけが講演者による勧誘が多く、研究者の講演などの日常的な社会貢献活動が市民の科学研究への関心を深める上で重要であることが再認識された。

アンケートの自由筆記部分からは,普段、歴史史料に触れる機会が少ない層にとっては、和文や漢文で書かれた史料を読むこと自体に興味を持ってもらえたことが明らかになった。逆に、歴史史料に興味を持つ層からは、これまで自分が読んできた視点と異なる視点で読むことで、新たな発見をできた意外性に惹きつけられたことがわかった。つまり、異分野連携型のワークショップでは、興味・関心が異なる市民の集合体であっても、主催者側の工夫でそれぞれの面白さを他分野に見つけることができ,広い範囲から協力を得られる可能性を示唆している.

市民参加による研究,いわゆるオープンサイエンスのうち市民参加型研究の側面を考えると,一般市民の抽出したデータを自然科学のデータとして精度を高めるためには、参加した専門家間での連携が不可欠であり,自らの専門を超えて議論することによりデータとして精度のよいものになりうる.また,恒常的な参加を取り込むためには「みんなで翻刻」のようなオンライン型の作業と「古典オーロラハンター」のようなオフライン型のワークショップ双方の相乗効果を狙い,若年層,シニア層双方へアプローチするのが今後の目標である.


本稿は日本学術振興会科学研究助成事業「歴史文献を用いた過去の太陽活動の研究」(番号:JP18H01254)、「天変地異のオープンサイエンス」(番号:JP18H05319)の研究成果の一部である。


参考文献
岩橋清美,玉澤春史 2018 「異分野連携研究における研究基盤データ構築への市民参加の可能性:参加型ワークショップ『古典オーロラハンター』を事例として」『Stars and galaxies』1, 51-65

加納靖之 2017:「みんなで翻刻ーこれまでとこれから」『リポート笠間』63, pp.53-56