日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 歴史学×地球惑星科学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、岩橋 清美(国文学研究資料館)

[MIS17-P10] 有感地震記述ならびに震度の距離減衰式に基づく地震活動解析

*石辺 岳男1岩佐 幸治1古村 美津子1松浦 律子1 (1.地震予知総合研究振興会)

キーワード:有感地震、震度の距離減衰式、地震活動解析

日記や公文書等の史料に残された有感地震記録から余震や群発地震を抽出し、歴史地震の地震活動解析や震源域推定等に活用できないか。本研究では史料中の有感地震記録を用いた新たな歴史地震研究の可能性を探るべく、気象庁震度データベースならびに震度の距離減衰式を用いて有感地震回数分布の再現性の検証を行った。また有感地震記録に基づき大地震の震源域を推定する予察的手法を構築し、2004 年新潟県中越地震、2008 年岩手・宮城内陸地震ならびに2011 年福島県浜通りの地震に対して適用するとともに様々な地震活動変化が有感地震の時空間的特徴に与える影響について調査した。本研究で得られた結果からは、今後、史料から有感地震に対する記述を抽出・蓄積するとともに、予察的に構築した手法を高度化することで歴史地震の震源域を従来の被害記述とは異なった観点から議論できる可能性が示唆された。

日本では過去1000年以上にわたる豊富な史料が残されており、史料記述に基づき例えば南海トラフ沿いの海溝型大地震が繰り返し発生してきたことが明らかにされ、歴史地震の震源域推定が行われてきた(例えば、宇佐美・他、2013)。しかしながら、副次的な津波や火災、地滑り等が被害の主要因であるため、地震動による被害を詳細に把握することが困難な歴史地震は少なくない。また、被害は当時の人口分布や建築物の経年劣化に強く依存しており、従来の手法によって推定された震源域は人口密集地域に偏って分布する可能性がある。

史料には被害記述の他に有感地震を記述したものがあるが、僅かな先行研究を除き、史料中の有感地震記述は歴史地震の震源域推定や地震活動解析に十分に活用されてきたとは言い難い。有感地震数は本震からの経過時間ならびに震源域からの距離に強く依存する為、有感地震数の時空間的な推移に基づき、大地震の震源域を制約できる可能性がある。また、有感地震数の増減は大地震後の地震活動度変化や誘発地震・群発的地震活動の発生を示唆する。史料中に記述された有感地震記録から、歴史時代に発生した大地震の震源域推定や地震活動の時間的・空間的な変化をイメージングする手法を構築できれば、従来の被害記述に基づいた大地震にのみ着目した歴史地震研究から、中小地震を含めた新たな歴史地震研究の展開が期待される。

2000 年~2010 年までに最大震度3 以上、深さ20 km 以浅で発生した約2300 の浅発地震を対象に、田中・他(2017)による距離減衰式から予測震度を計算し、計測(観測)震度と比較した。その結果、震源距離10 ~400 km 程度の有感域のほぼ全域にわたって残差が± 1 程度の範囲内に収まり、残差のヒストグラムは平均がほぼ0 の正規分布を示す事が分かった。また既往の距離減衰式に比べ幅広いマグニチュード、震源距離の範囲内で小さな残差になる事が示された。さらには日本全国で上記の期間に観測された地殻内地震による有感地震回数(震度2以上)の分布を概ね再現できた。これらの結果は、田中・他(2017)による地殻内地震に対する震度の距離減衰式が、中小地震、遠方の観測点まで日本全国の地表における計測震度の推定式として活用できる事を示している。

これらの背景を元に、有感地震記録に基づき大地震の震源域を推定する予察的手法を構築し、2004年新潟県中越地震、2008 年岩手・宮城内陸地震ならびに2011 年福島県浜通りの地震に対して適用した。具体的にはグリッドを緯度・経度方向に一様に配置し、それぞれのグリッドで地震の規模別頻度分布がグーテンベルグ・リヒター則に従うものと仮定してランダムに地震を発生させ、それぞれの観測点において算出された有感地震回数と観測された回数との規格化残差を計算した。その結果、2004 年新潟県中越地震ならびに2008 年岩手・宮城内陸地震に対しては、残差分布から震源域が明瞭にイメージングされ、残差が最小となる地点も本震の震源にほぼ一致した。一方で、2011 年福島県浜通りの地震の場合には、その1 か月前に発生した東北地方太平洋沖地震による余震活動が活発な期間にあたる為、沖合においても残差が小さくなり、イメージングされた震源域は上記の2 地震に比べ不明瞭であった。
現在の震度観測点が稠密に展開されている状況に対しては、有感地震回数の分布から地震活動度を推定することができる可能性が示された。しかしながら、史料中の有感地震記述への適用可能性を考えた場合、史料から有感地震数を抽出できる点(震度観測点)は現在に比べ極端に少ない事が想定される。そこで観測点を間引いた場合に、残差分布ならびに残差が最小となるグリッドがどのように変化するか、調査した。その結果、観測点密度が低くなるにつれてイメージングされた震源域は不明瞭になるものの、観測点のカバレッジが保証され有感地震回数が突出する観測点がある場合には、観測点分布が疎になった場合でもある程度、震源域がイメージングされる事が分かった。