日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 地球流体力学:地球惑星現象への分野横断的アプローチ

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:伊賀 啓太(東京大学大気海洋研究所)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、柳澤 孝寿(海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野)、相木 秀則(名古屋大学)

[MIS18-P02] 台風の内部コア領域に見られる波数2擾乱に関する研究

*河田 裕貴1伊賀 啓太1横田 祥2栃本 英伍1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.気象庁気象研究所)

キーワード:渦ロスビー波、楕円渦、GBVTD解析

台風は古くから軸対称を仮定した力学理論によって、発達のメカニズムが調べられてきたが、インナーレインバンドに代表される非軸対称構造も重要な特徴である。非軸対称構造を説明する理論として代表的なものに渦ロスビー波理論(Montgomery and Kallenbach, 1997)があり、この理論に基づいた台風の非軸対称構造の研究がこれまでに多くなされてきた。
台風の非軸対称構造は、波数1と波数2の成分の振幅が特に大きく、それらの擾乱が渦ロスビー波の特性を満たすという研究(Wang, 2002)の他に、台風強度へ及ぼす影響に着目した研究が行われてきた(e.g. Yang et al., 2007)。また、振幅の大きい波数1と2の擾乱のうち、波数1については不連続モデルでの理論が構築されつつある(e.g. Ito and Kanehisa, 2013; Nishimoto and Kanehisa, 2018)。一方で、波数2は楕円渦として顕在化するが、観測研究の多くはレーダー反射強度の解析であり(e.g. Kuo, 1999)、力学場を推定したものはなく、非静力学モデルを用いた調査も十分ではない。
本研究では、非軸対称構造の中でも方位角波数2の擾乱に着目し、その発生・維持過程を明らかにすることを目的として、観測データの解析と領域非静力学モデルを用いた数値実験を行った。
まず観測的研究として、2018年台風8号(Maria)について、ドップラーレーダーのデータから風速場推定を行った。本事例は長時間に渡って扁平な楕円の壁雲構造を持ち、石垣島のドップラーレーダーで内部コア領域を詳細に観測できた非常に珍しい事例である。GBVTD解析(Lee et al., 1999)を用いて高度2 kmの力学場の推定を行ったところ、接線風は明瞭な方位角波数2の構造を持っており、接線風とレーダー反射強度の極大域に対応が見られた。また、楕円渦の長軸に対応する場所には常に波数2の擾乱が存在し続け、時折外側へフィラメント構造を形成して伸びていく様子が捉えられた。この波数2擾乱は、1)接線風の軸対称成分よりも遅い方位角位相速度を持っている、2)渦度の軸対称成分の動径勾配が負の領域に擾乱が存在している、という2点の特徴を持ち、渦ロスビー波の性質を良く満たしていた。
今回、観測研究の対象とした台風は石垣島のレーダーで捕捉可能な領域に入った際、楕円構造が既に形成されていたため、観測データから非軸対称構造の成因を調べることができない。そこで次に、領域非静力学モデルを用いた数値実験を行い、非軸対称構造の成因と維持過程を力学的観点から詳細に調べた。用いたモデルは気象庁非静力学モデル(JMA-NHM)である。計算は北緯18度の f 面で行った。水平格子間隔は2.5kmで積雲パラメタリゼーションは用いていない。初期値として、最大風速半径160km、渦半径800kmの初期渦を領域中心に配置した。本実験の結果、数日間の急発達期を経て成熟した台風が再現された。各波数の擾乱エネルギーを計算すると、波数1と2のエネルギーが大きく、特に時刻87h〜95hの時間帯では波数2のエネルギーが長時間に渡って卓越しており、長寿命の楕円渦を再現することに成功した。この楕円渦は長軸領域で雨水混合比が大きくなっており、観測と整合的な描像を得た。摩擦を考慮しない非弾性方程式を用いたエネルギー収支解析を行い、この擾乱の成因を調べると、下層では動径風による収束項が、中層では浮力項が非軸対称化に効いていた。また、楕円渦の維持期間についてもエネルギー収支を評価したところ、下層では常に非軸対称な収束に起因するエネルギー生成が大きかった。これらから、楕円渦の生成・維持には長軸領域での強い水平収束→上昇流→潜熱解放による渦位生成が重要であることが示唆される。