日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS19-P27] 珪藻分析を用いて復元された九州西岸池田池(大蛇池)の湖底堆積物中の過去4500年間のイベント性堆積物層

*鹿島 薫1箕田 友和1福本 侑3原口 強2山田 和芳4 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、2.大阪市立大学大学院理学研究科、3.立命館大学、4.ふじのくに地球環境史ミュージアム)

キーワード:珪藻遺骸、台風堆積物、沿岸湖沼、池田池(大蛇池)

池田池(大蛇池)は九州西岸、天草半島に位置する、東西南北約200mの小規模な沿岸湖沼である。もともとは潟湖であったが、アカホヤ火山灰堆積後、砂州で湖口をふさがれ、淡水湖沼となっている。Woodruff et.al.(2014)は、この池田池(大蛇池)において、湖底下1.9-2.1mの層準において、元寇時(AD1274, AD1281)の2層の台風堆積物を確認した。しかし、年代を推定できる資料が限られていること、2層の台風堆積物であることの根拠が限られていることなどの問題点も指摘されてきた。ただ、過去の巨大台風の痕跡が、海に面した小規模な湖沼の湖底に記録されていることは、九州西域の災害史を考察する上で極めて重要な手がかりとなる。

そこで、2016年に原口ほかによって、全長22mのボーリングコア試料が新たに掘削された。堆積物から得られた炭素14年代測定結果およびアカホヤ火山灰層より、過去約8000年間の堆積物が、湖底下にほぼ連続的に堆積していると推定された。

本研究では、そのうち上位9m、年代として約4500年間における珪藻遺骸群集変動について、2-4cm間隔で分析を行った。その結果、Woodruff et.al.(2014)の示した元寇時の台風堆積物に加えて、合計5層のイベント性堆積物層を確認したのでここで報告する。

珪藻遺骸群集の特徴は以下のようにまとめられる。
(1)まず、研究を始めるにあたり、湖底表層堆積物を採取し、ゆるやかに水洗ののち、SEMを用いて、堆積物観察を行った。湖底表層には多数の糞粒が堆積しており、それらは珪藻殻の集合からできていた。産出する珪藻は、Aulacoseiraなどの淡水浮遊生種、Staurosiraなど水草などに付着し、湖表面に漂うこともある淡水半浮遊生種であり、その種構成も限られていた。
(2) 池田池では、過去4500年間は、水深の小さい淡水湖沼環境が継続していた。そしてAulacoseiraなどの淡水浮遊生種、Staurosiraなど淡水半浮遊生種が優占して産出した。
(3)しかし、以下の5層準において、珪藻遺骸群集が急変することがわかった。これは、海水の流入などによる湖沼塩分の急変、周辺流域からの土砂流入が推定され、台風による高潮や土砂崩壊などのイベント性堆積物である可能性が高いと判断された。
(4)それぞれのイベント性堆積物の深度とその堆積年代は以下のようにまとめられる。Event 1 (7.26-8.26m): 4200-3800 yBP, Event 2 (4.32-4.40m): 2000 yBP, Event 3 (3.20-3.28m): 1400 yBP, Event 4 (2.64-2.72m): 1000 yBP, Event 5 (1.22-1.90 m): 500-700 yBP.
(5)それぞれのイベントをもたらした要因(巨大台風などの)の決定のためには、他種の分析データの蓄積と、近隣データとの比較検討が必要である。