日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] 古気候・古海洋変動

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、加 三千宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS19-P32] 有明海堆積物中のマイクロプラスチック含量

園田 拓希1、*岡崎 裕典1磯辺 篤彦2 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、2.九州大学応用力学研究所)

キーワード:マイクロプラスチック、海底堆積物、有明海

マイクロプラスチックは、5 mm以下のプラスチック片のことを指す。日本周辺海域でのマイクロプラスチック浮遊数は、世界の海洋の平均値を大きく上回っており、マイクロプラスチック汚染が懸念されている。マイクロプラスチックは最終的に海岸や海底に堆積して海洋から除去されるが、その沈降・堆積過程はよくわかっていない。そこで本研究は、有明海熊本沖の堆積物中におけるマイクロプラスチックの含量を明らかにすることを目的とした。有明海熊本沖の11測点で2016年12月にエクマンバージを使って採取した表層堆積物試料を使用した。熊本市街地の北と南にはそれぞれ白川と緑川が流れ、有明海に注いでいる。白川河口の1測点と緑川河口の2測点においても表層堆積物試料を直接チャック付きプリ袋に採取した。堆積物試料を凍結乾燥させ、50 g を目安に乾燥重量を秤量した。乾燥試料を目合い63 μmの篩に載せ、水道水で細粒の粒子を洗い流したのち、300 mLのガラスビーカーに移した。ビーカー内の試料を水道水で攪拌し、浮遊した残渣と沈殿した残渣をそれぞれ別々のろ紙に回収した。ろ紙に回収した浮遊残渣試料を、再度ビーカーに移し、1N塩酸20 mLと10% 過酸化水素水20 mLを加え、天板温度200°Cのホットプレートで1時間加熱した。反応終了後にElix水を加え、ナイロン製プランクトンネット生地(目合い63 μm)を使って作成した簡易篩を通し、Elix水でよく洗い酸抜きを行った。簡易篩上の残渣をろ紙に回収し、40°Cの定温乾燥器で一晩乾燥させた。 乾燥させた試料は、筆を使って薬包紙に移しガラスバイアルに回収した。実体顕微鏡下で目合い300 μmと150 μmの篩にかけた試料からプラスチックの可能性がある粒子を拾い出した。拾い出した粒子がマイクロプラスチックかどうかはフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により判定した。フーリエ変換赤外分光計 (FT-IR alpha; Bruker Optics K.K., Tokyo, Japan) を使用し、データベース上の標準物質とスペクトル比較を行い、ヒットクオリティが400以上のものをマイクロプラスチックと判定した。なお、堆積物試料の測定に先立ち、凍結乾燥および天板温度200°Cのホットプレート上での加熱はFT-IRによるプラスチックの同定の支障とならないことを確認している。測定の結果、有明海熊本沖の11測点において合計18個、河口の3測点において合計8個のマイクロプラスチックを検出した。検出したマイクロプラスチックの種類はPPやPE(特に高密度PE)が主で、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)も見つかった。有明海熊本沖堆積物試料中のマイクロプラスチックはほぼ一様に分布しており、沿岸や河口域からの距離との明瞭な関係は見られなかった。有明海熊本沖11測点におけるマイクロプラスチック含有量(堆積物乾燥重量1 kgあたりのマイクロプラスチック個数)の平均値は、29 pieces kg-1であり、東京湾運河部のマイクロプラスチック含有量(約8000 pieces kg-1)よりも顕著に少なかった。有明海熊本沖(120 km2)のマイクロプラスチックの堆積量を概算したところ、5×109から2×1010個 yr-1と見積もられた。このことは比重が1よりも小さなマイクロプラスチックが比較的速やかに堆積物に除去されていることを示した。