日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 山の科学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS20-P07] 乗鞍岳の源流域における大気沈着および表面流を介した化学物質の挙動

*清水 啓紀1佐々木 明彦2鈴木 啓助3 (1.信州大学大学院総合理工学研究科、2.国士舘大学文学部地理学教室、3.信州大学理学部)

キーワード:源流域、大気沈着、越年性雪渓、渓流水質

源流域に越年性雪渓を有する環境では,暖候期における融雪水が降水とともに下流域の生態系の水源として重要な役割を担うと考えられるが,水および溶存無機イオンが周氷河環境の高山帯から如何に流出するかについて,国内で観測された事例はない.本研究は,ⅰ)長期的な表面流の水質・水量観測による源流域での融雪・降雨イベントに対する表面流の応答性の解明,ⅱ)暖候期の大気沈着物の化学的特徴の解明による融雪後期の化学物質の大気沈着-地表面流去量の定量化,ⅲ)降雨イベントに対する水質の応答性に基づく地下水の流出過程の検討を目的として,中部山岳地域の乗鞍岳東側斜面の源流域にて2016-2018年に気象・水文調査を実施した.
降雨に対する表面流の応答は,降雨開始直後から表面流形成および流量ピークに至るまでそれぞれ概ね数時間であり,降雨時の地表面流出率は最大7%未満であった.これは周氷河性の岩屑斜面の浸透しやすさと,火山体の粘土層や火山灰層等の内部構造に沿った地下水流動および滲出により表面流が素早い応答性を有すると考えられる.暖候期の降雨および積雪の化学的特徴は,NO₃⁻や非海塩起源のSO₄²⁻と強い相関をもつpHを示す酸性雨や,先行研究で示唆された「バックグラウンド黄砂」の乗鞍岳高山帯への影響を暗示した.また,8月以降の化学物質の大気沈着量と地表面流去量の算定結果について降水量の地表面流出率を考慮すると,Ca²⁺は大気沈着量に比べ地表面流去量が多量であり,Cl⁻の地表面流去量は大気沈着量に関連するとみられ,一方のNO₃⁻およびSO₄²⁻は相対的に大気沈着量が多量であることが明らかとなった. 地下水流出に関しては,降雨イベント時に酸素安定同位体比が-19‰を示す地表水が採取でき,これは観測期間中の無降雨時の地表水が示すδ¹⁸O値(>-17)に比べ明瞭に小さかった.同年1月に乗鞍岳の標高2000m付近で採取した新雪試料の酸素同位体比が-19‰程度であったことから,融雪初期に涵養した融雪水が少なくとも10月まで地下に貯留され,降雨イベント中,一時的に表面流に寄与していると推定された.この地下水の流出過程は,越年生雪渓の融雪後期における地下水位の低下時に,降雨の浸透水または地下に封入された空気が地下水の押し出しを駆動していると推察される.