日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 山の科学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS20-P09] 上高地・槍-穂高連峰の高山帯・亜高山帯山岳池沼における底生動物の集団構造と遺伝構造

*井上 恵輔1東城 幸治1 (1.国立大学法人信州大学理学部理学科生物学コース)

キーワード:山岳池沼、生物多様性、群集生態学

山岳域には、様々な起源をもつ池沼が点在しており、山岳生態系における重要なハビタットとしての役割を担っていると考えられる。例えば、陸生生物にとっての水飲み場としての機能もあれば、水生昆虫類にとっては貴重な生息ハビタットとしても利用されている。前述の通り、高山帯・亜高山帯の山岳池沼は多様な成因をもつことが特徴で、成因ごとに池沼環境は大きく異なると予想される。環境の相違は生物相の相違にも直結すると考えられるため、池沼の成因や環境が多様であることは山岳域の生物多様性創出に寄与している可能性がある。しかし、特に高山帯における山岳池沼の生物相に関する知見は乏しく、池沼の環境と生物多様性の関係に着目した研究はヨーロッパの高山岳域においては少数の研究事例があるものの、本邦においてはほとんど注目されてこなかった。

中部山岳域には堰止池や氷河池、火口池が存在し、山岳池沼の生物多様性と環境の関係を究明する上での好適地である。そこで本研究では、中部山岳域の上高地-槍・穂高連峰に注目し、水生昆虫相の調査と池沼環境そのものの関連性を追求した。調査の結果、得られたデータを比較・検討するとともにクラスター解析やNMDS解析、CCA解析を試行した。その結果、水生昆虫相のパターンにより、この山岳域の池沼は大きく4グループに区分された。このような水生昆虫相には標高や岸際の草本植物の現存量、池底の砂泥量などが影響していることが明らかとなった。

加えて、同グループに類型化された池沼間では、互いに環境要因が類似している傾向がみられた。これらの結果から、山岳池沼の水生昆虫相は池沼環境によって異なることが明らかとなり、多様な環境をもつ山岳池沼は山岳域の生物多様性創出に重要な役割をもつ可能性がある。これら群集生態学的な解析に加え、本研究では、これらの山岳池沼に生息する水生昆虫類が、どの程度移動分散しているのか? にも注目し、移動や分散の方向性や強度などを種群ごとに検討するような遺伝子解析にも着手した。今回の発表では、その第一段階として調査池沼において比較的数多く採集されたオンダケトビケラPseudostenophylax ondakensis、アミメトビケラOligotricha fluvipes、マメゲンゴロウAgabus japonicus を対象にし、DNAバーコーディング領域(mtDNA COI領域)の遺伝子解析を実施した。その結果、多くの種内系統が報告されているオンダケトビケラにおいては、調査対象とした池沼それぞれの系統を把握できたことに加え、今まで本地域(上高地・槍-穂高地域)では未検出であった系統の存在が確認された。また、マメゲンゴロウにおいては、北海道や長野県他地域と同系統の個体に加え、遺伝的には異なる系統の個体が一部の調査池沼に存在していることが明らかとなった。