日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 惑星火山学

2019年5月27日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:野口 里奈(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、片岡 香子(新潟大学災害・復興科学研究所)、大槻 静香(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[MIS23-P01] 地球・月・火星の溶岩チューブ洞窟形状による溶岩流温度の推定可能性

*本多 力1 (1.火山洞窟学会)

キーワード:溶岩チューブ洞窟、三原山ホルニトケイブ、溶岩流温度

[はじめに] 伊豆大島三原山の1951年噴出の溶岩流では、噴火当時の現場の溶岩流の温度や流速と溶岩流厚さを直に測定し、粘性係数と降伏値の温度変化が得られている(1,2)。さらに、その後採取された試料を実験室で再溶融させて表面張力の温度変化が測定されている(3).また、その後2005年に噴火口縁で発見調査された三原山ホルニトケイブの内外形状から溶岩降伏値と表面張力が同定されている(4,5,6)。三原山ホルニトケイブは、溶岩流温度、粘性係数、降伏値、表面張力が明確にされた唯一の貴重な例である。一方、宇宙では、月・火星の溶岩地帯に縦孔が発見されその縦孔下に溶岩チューブ洞窟が存在していることが想定されている(7,8,9)。地球の伊豆大島三原山の例に基づき、月・火星での溶岩チューブ形状と内部の痕跡から溶岩降伏値と表面張力を求め溶岩温度と粘性係数を同定する可能性について検討を行った。将来の縦孔探査の一つの目的として重要と考えられる。
[伊豆大島三原山ホルニトケイブから得られる知見]噴火口壁の縁に掲載された三原山ホルニトケイブは初めて2005年に調査され、内部観察と水平断面と縦断面の測量図の作成が行われた(4)。この溶岩チューブ洞窟の空洞高さとその傾斜率から、傾斜した円管内を流れるビンガム流体の流動限界条件により、溶岩降伏値fBはfB=H(ρg sinα)/4から推定される溶岩降伏値5000Paが、内壁表面の溶岩鍾乳のピッチから天井からたれ下がる溶岩鍾乳の凹凸のピッチPを測ることにより溶岩の表面張力γ= P2 gρ/4π2を得ることが出来た。計測されたピッチはおおよそP=3~4cmであり、その時の表面張力は 600~1000mN/m が得られている。伊豆大島溶岩の表面張力は横山ら(1970)によって実験室で計測されており、その外挿値の範囲内にある。噴火時の降伏値は粘性係数とともに温度の関数として計測されており(1125℃で4300Pa)(2)、溶岩チューブ洞窟高さから得られた降伏値と、表面張力は採取された試料の再溶融により求められた値と整合的であることが明らかとなった(5,6)。このことは、過去の噴火による溶岩流温度が不明の場合でも、溶岩チューブ洞窟が存在していれば噴火当時の溶岩温度を推定することが可能であることを示している。
[月・火星への適用と将来探査]月・火星の縦孔の露頭断面には、停止した溶岩流厚さ、溶岩チューブ洞窟高さ、溶岩チューブ洞窟内部には溶岩鍾乳ピッチ、等の痕跡が残されていると考えられるので、その痕跡を利用した溶岩流温度の同定が可能と考えられる。マリウスヒルのリル-Aに存在する Marius Hills Holeについては、露頭の溶岩層平均厚6m、チューブを想定した空洞高さ18mと推定傾斜率から降伏値131Paと推定している(10)。降伏値の温度依存データが取得されていればリル-Aを流れた溶岩の温度を推定できることになる。最終的にはサンプルプルリターンによる溶岩試料を用いて、あらかじめ粘性係数、降伏値、表面張力の温度変化を測定して、過去の噴火により生成された溶岩チューブ洞窟の空洞高さと傾斜率から得られた降伏値、溶岩鍾乳のピッチから得られた表面張力を、得られている温度変化のデータと照合することにより温度を同定することが出来る。またその温度により粘性係数も同定することが出来る。図1に推定概念を示す。
[おわりに]この溶岩流温度の推定法によれば、あらかじめ採取した溶岩試料から溶岩の粘性係数、降伏値、表面張力の温度変化のデータを取得できれば、過去に噴火した地球上および月・火星上の溶岩流の溶岩チューブ洞窟の高さから求めた降伏値と内部の溶岩鍾乳のピッチから求めた表面張力から溶岩の温度を同定し、さらにその温度から溶岩の流れたときの粘性係数を同定できる可能性がある。月・火星での試料採取がすぐには出来ない段階では、溶岩組成情報に基づいた計算による温度変化の物性データを得て、評価するか、あるいは合成試料を作成して温度変化を実測することが考えられる。
参考文献:
(1)T.Minakami:On the Temperature and Viscosity of the Fresh Lava Extruded in the 1951 Oh-Shima Eruption, 東大地震研彙報, Vol.29,pp.487-493,1951
(2)G.Hulme:The Interpretation of Lava Flow Morphology , Geophys. J. R. astr. Soc. (1974) 39, 361-383
(3) 横山泉、飯塚進:溶融火山岩の表面張力の測定、北大地球物理学研究報告,24:57-61,1970
(4)立原弘、大島治、本多力:東京都大島町の火山洞窟測量と観察報告,火山洞窟学会, 2006
(5) 本多力:V102-001伊豆大島三原山ホルニト直下の溶岩チューブ洞窟から得られる知見,地球惑星科学連合大会,2006.
(6) T.Honda. et al:Investigation on the Lava Tube Cave Located under the Hornito of Mihara-yama in Izu-Oshima Island,Tokyo,Japan, AMCS Bulletin19/SMES Boletin7-2006,pp185-187, Proc.X,XI,XII Internat.Symposia on Vulcanospeleology,2008
(7)J.Haruyama, et al: Possible lunar lava tube skylight observed by SELENE cameras, Geophysical Research Letters, Vol.36,L21206,2009
(8)M.S.Robinson etal:Confirmation of sublunarean voids and thin layering in mare deposits,Planetary and Space Science 69,pp18-27,2012
(9)G.E.Cushing, et al:Geophys. Res. Lett., 34, L17201, doi:10.1029/2007GL030709.2007
(10)本多力: SVC50-05,月の縦孔Marius Hills Hole下部における溶岩チューブ洞窟の存在可能性,地球惑星科学連合大会, 2017