[MIS28-P01] 海域泥火山分布が示唆する西南日本太平洋側海底下の不均一な環境
キーワード:泥火山、西南日本沿岸域、地下環境
「泥火山」は広域圧縮応力環境下で地下の堆積物が流体と共に上昇して地表に到達し形成する地形的特徴である。海底に発現した泥火山が山体を形成し、その形状を保つ(削剥されない)ためには、主たる構成物である「泥」の継続した供給が必要とされる(Kopf, 2002)。さらに堆積物が地表に至るためにはガスを含有する必要があるとする議論と併せて(Brown and Orange, 1993)、泥火山はその存在そのものが直下付近の地下環境を反映していると言える。
日本国内においても泥火山は海陸に知られている(田近ほか, 2009; Kuramoto et al., 2001など)。南端を南海トラフに縁取られる熊野海盆は、日本の代表的な海域泥火山フィールドの一つで、これまでに少なくとも14の泥火山が報告されている(Kuramoto et al., 2001; Morita et al., 2004; Pape et al., 2014; Asada et al., 2017)。2016年の観測では一部の泥火山の頂部から噴き出すガスや山体の形態変化が見られ(Menapase et al., 2017)、現在の泥あるいは流体の排出があることが示唆される。群発する泥火山は九州の東側沖合にもある。種子島沖にも少なくとも14の泥火山が報告されており(Kitada et al., 2018)、泥火山から海中へ生物の移動がある(Hoshino et al., 2017)。宮崎沖にも泥火山と解釈された地質学的特徴が複数ある。四国沖から日向灘の水深2000m付近(熊野海盆泥火山群が存在する深度程度)をターゲットとした航海(YK18-05)では、日向灘に、熊野海盆や種子島の泥火山群と似通った音響的特徴(形態と後方散乱強度パターン)を持つ山体を認めた。しかし四国沖には、一部が硬化した海底と泥火山の存在が示唆されたものの泥火山の群発が認められなかった。これらは、日向灘から種子島沖にかけては実に熊野海盆よりも広大な泥火山フィールドが存在すること、および四国沖には熊野海盆と日向灘~種子島沖とは異なる地下環境が存在する可能性を示唆する。
自らの形態を保持するために「流動化した泥」の排出を継続していると考えられる海域の、泥火山活動を支えることができる地下環境を考える:
1.地下に「流動化した泥」が充分に存在する、あるいは「流動化した泥」を生産し続ける環境がある。
ー 堆積層生成時に多量の海水が封じ込められ、排水されないまま埋積された
ー 粘土鉱物の脱水による淡水の付与が、圧密を受けた堆積物を崩壊させた
ー 流体が断層または層間を移動し集積して、圧密を受けた堆積物を崩壊させた
2.貫入体を母体として海底に至っている場合には、少なくとも貫入体形成の初期において、上昇する堆積物にガスが含まれる必要がある。
ー 熱分解または生物起源ガスを生産する堆積物が存在する
ー 熱分解または生物起源ガスや深部起源流体の流路が存在し、堆積物が浮力を獲得するために充分な量が滞留する環境がある
3.地下における「流動化した泥」と「ガス」の共存が泥火山形成の要因となり得るが、どちらか片方のみが存在する場合には、必ずしも泥火山を形成しない。
熊野海盆の付加体内温度環境(たとえばMarcaillow et al., 2012)は熱分解起源ガスの生成および粘土鉱物が脱水する条件を満たすと考えられる。粘土鉱物の脱水は、付加体内で流動化した泥を生産し浮力を付与して貫入体を形成する。熊野海盆下のガスの生産と脱水は、古い断層を流路として集積して、泥火山の起源を形成している可能性がある。日向灘~種子島沖にも同様に、隣接する九州東海岸沿いの商業ガス田に見られるようなガス供給がある可能性がある。これに加えて泥岩の崩壊がある環境が見込まれる。しかし四国沖に泥火山活動が顕著でないことは、四国沖に沈み込むかつての拡大軸の影響を残すプレート温度その他により、熊野海盆や日向灘~種子島沖と異なる地下環境があることが考えられる。この不均一性は、地震発生領域などパッチ状を呈する他の地質学的現象と関連するかも知れない。
日本国内においても泥火山は海陸に知られている(田近ほか, 2009; Kuramoto et al., 2001など)。南端を南海トラフに縁取られる熊野海盆は、日本の代表的な海域泥火山フィールドの一つで、これまでに少なくとも14の泥火山が報告されている(Kuramoto et al., 2001; Morita et al., 2004; Pape et al., 2014; Asada et al., 2017)。2016年の観測では一部の泥火山の頂部から噴き出すガスや山体の形態変化が見られ(Menapase et al., 2017)、現在の泥あるいは流体の排出があることが示唆される。群発する泥火山は九州の東側沖合にもある。種子島沖にも少なくとも14の泥火山が報告されており(Kitada et al., 2018)、泥火山から海中へ生物の移動がある(Hoshino et al., 2017)。宮崎沖にも泥火山と解釈された地質学的特徴が複数ある。四国沖から日向灘の水深2000m付近(熊野海盆泥火山群が存在する深度程度)をターゲットとした航海(YK18-05)では、日向灘に、熊野海盆や種子島の泥火山群と似通った音響的特徴(形態と後方散乱強度パターン)を持つ山体を認めた。しかし四国沖には、一部が硬化した海底と泥火山の存在が示唆されたものの泥火山の群発が認められなかった。これらは、日向灘から種子島沖にかけては実に熊野海盆よりも広大な泥火山フィールドが存在すること、および四国沖には熊野海盆と日向灘~種子島沖とは異なる地下環境が存在する可能性を示唆する。
自らの形態を保持するために「流動化した泥」の排出を継続していると考えられる海域の、泥火山活動を支えることができる地下環境を考える:
1.地下に「流動化した泥」が充分に存在する、あるいは「流動化した泥」を生産し続ける環境がある。
ー 堆積層生成時に多量の海水が封じ込められ、排水されないまま埋積された
ー 粘土鉱物の脱水による淡水の付与が、圧密を受けた堆積物を崩壊させた
ー 流体が断層または層間を移動し集積して、圧密を受けた堆積物を崩壊させた
2.貫入体を母体として海底に至っている場合には、少なくとも貫入体形成の初期において、上昇する堆積物にガスが含まれる必要がある。
ー 熱分解または生物起源ガスを生産する堆積物が存在する
ー 熱分解または生物起源ガスや深部起源流体の流路が存在し、堆積物が浮力を獲得するために充分な量が滞留する環境がある
3.地下における「流動化した泥」と「ガス」の共存が泥火山形成の要因となり得るが、どちらか片方のみが存在する場合には、必ずしも泥火山を形成しない。
熊野海盆の付加体内温度環境(たとえばMarcaillow et al., 2012)は熱分解起源ガスの生成および粘土鉱物が脱水する条件を満たすと考えられる。粘土鉱物の脱水は、付加体内で流動化した泥を生産し浮力を付与して貫入体を形成する。熊野海盆下のガスの生産と脱水は、古い断層を流路として集積して、泥火山の起源を形成している可能性がある。日向灘~種子島沖にも同様に、隣接する九州東海岸沿いの商業ガス田に見られるようなガス供給がある可能性がある。これに加えて泥岩の崩壊がある環境が見込まれる。しかし四国沖に泥火山活動が顕著でないことは、四国沖に沈み込むかつての拡大軸の影響を残すプレート温度その他により、熊野海盆や日向灘~種子島沖と異なる地下環境があることが考えられる。この不均一性は、地震発生領域などパッチ状を呈する他の地質学的現象と関連するかも知れない。