日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT48] 地球化学の最前線

2019年5月26日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系)、横山 哲也(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)

[MTT48-P08] 小型の永久磁石を用いた有機物の反磁性磁化率測定および磁気分離と物質同定

*久好 圭治1福山 紘基2植田 千秋2寺田 健太郎2 (1.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻, 大阪府立大手前高等学校、2.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)

キーワード:有機物、磁気分離、微小重力、反磁性磁化率、物質同定、永久磁石

一般に,微小重力空間に開放された固体粒子は磁気的ポテンシャルによる並進運動を引き起こすが,その速度は粒子の質量に依存せず,物質固有の磁化率のみに依存する.したがって得られた磁化率を文献値と対応することで,単一粒子において物質同定が可能となる[1][2][3].これまでに私たちはmm ~ sub-mmサイズの反磁性鉱物について,上記の同定が可能であることを確認してきた.さらに揮発性固体である氷(H2O)とドライアイス(CO2)でも並進運動を観測した.今回,同じ原理を用いて,様々な有機物質の反磁性磁化率を測定し,磁場勾配による有機物の分離・識別の可能性について考察した.
実験に必要な微小重力は,小型の落下ボックス(30×30×20cm)内に発生させた.落下距離は1.8mで,有効な微小重力継続時間は約0.5秒である.落下ボックス内に小型の磁気回路(B〜0.8T),照明器具およびハイスピードカメラを配置した.試料を磁場勾配力が最大になる位置にセットし,微小重力空間に解放した.反磁性有機物試料は磁場の外へ並進し,その運動から磁化率を求めた.
本研究のために高画質な高速度カメラとして天体観測に使われるカメラを用いたことにより,試料の位置の精度が大幅に向上し,磁化率の精度を上げることができた[4].
固体の有機物を同定・識別し,有機物の混合物を物質ごとに異なる速度で運動させて分離する手法の実用可能性が新たに示された.従来の測定条件では,磁化率の違いが10-7emu/gのレベルでしか識別できなかったが, 今回のセッティングにより,10-8emu/gの違いが識別できた.この手法は簡便な装置を用いて非破壊で行えること,他のクロマトグラフィーの手法と異なり有機物の固体の塊のままで混合物分離ができることにおいて,分析手法として有用であると考える.地上での微小重力環境では時間に制約されるが,その制約内で精度よく,かつ低予算で測定が可能である.この手法は,他の短時間の現象を高速で捉えることが要求される一部の学術研究・企業研究でも,分野を問わず応用できる可能性がある.
微小重力と磁場勾配さえあれば物質の磁化率を求めることができるこの手法は,物質を持ち帰る必要なくその場で分析ができるという面から宇宙探査に貢献できる可能性がある.地上で分析に使われる装置を宇宙探査機に搭載する場合には,大きさ,重量の制限や性能の制約が大きな課題となる.しかし,この装置は,微小重力環境である宇宙空間や小さな重力しかない小惑星では,弱い磁場勾配で長い時間をかけて試料を運動させることができる.そのため,装置を小型で軽量にできるので,探査機への搭載で大きな利点となる.ESAのRosettaミッションでは実際に彗星において有機物が検出されており,有機物をその場で詳しく分析する手法は宇宙探査において大きな需要となりうる.

References
[1] K. Hisayoshi, S. Kanou and C. Uyeda : Phys.:Conf. Ser., 156 (2009) 012021.
[2] C. Uyeda, K. Hisayoshi, and S. Kanou : Jpn. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 064709.
[3] K. Hisayoshi, C. Uyeda and K. Terada : Scientific Reports,(Nature Pub) 6 (2016) 38431
[4] H.Fukuyama, K. Hisayoshi, W. Yamaguchi and C. Uyeda : IEE Trans. Magne. 55 (2019) 6000304