日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] ポスター発表

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[O-08] ジオパークで地球活動をイメージする -ジオ多様性の大切さを知ろう-

2019年5月26日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、市橋 弥生(佐渡ジオパーク推進協議会)、小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)、大野 希一(島原半島ジオパーク協議会事務局)

[O08-P12] 統計データから振り返る糸魚川ユネスコ世界ジオパークの10年

*小河原 孝彦1竹之内 耕1茨木 洋介1小林 猛生2 (1.フォッサマグナミュージアム、2.糸魚川市ジオパーク推進室)

キーワード:糸魚川ユネスコ世界ジオパーク、フォッサマグナミュージアム、小滝川ヒスイ峡、持続可能な開発

糸魚川は,2008年12月に日本ジオパークに認定,2009年8月に世界ジオパークに認定され,現在は糸魚川ユネスコ世界ジオパーク(以下,糸魚川ジオパーク)として活動している.本稿では,糸魚川ジオパークが歩んだ10年の軌跡について,糸魚川市の主要な観光地やジオパーク活動に関する統計データから考察する.

糸魚川市は,1987年に「フォッサマグナと地域開発構想」を制定し,自然景観を活かした,海水浴やスキーなどによる観光客誘致がなされてきた.糸魚川市への入込客数は,1997~2001年度は年間300万人程度であったが,2002年度から減少傾向が顕著になり,中越地震(2004年)や中越沖地震(2007年)をへて,2007年度の185万人まで一貫して減少傾向にあった(図1).その後,日本ジオパーク認定(2008年),世界ジオパーク認定(2009年)によって減少傾向に歯止めがかかり,北陸新幹線開業(2015年)により2015年度は249万人の入込客数を達成した.近年は,糸魚川市駅北大火(2016年)の影響や新幹線効果の縮小もあり,2017年度で214万人と再び減少傾向にある.

フォッサマグナミュージアムは1994年にオープンし2015年にリニューアルした,糸魚川ジオパークの中核施設である.オープン初年度(1994年度)の95,705人の年間入館者数は,2007年度には40,683人と半減している(図2).これは,災害の影響に加え,博物館の常設展示物が更新されてこなかったことが影響していると考えられる.2008年に糸魚川が日本ジオパークに認定されると,フォッサマグナミュージアムのコンセプトであるヒスイや大地の成立ちにもう一度注目が集まるようになった.そのため,ジオパーク認定後は,入館者数が60,000人前後で推移するようになり,北陸新幹線開業と同時に実施した展示ニリューアルの結果,2015年度は101,725人の来館者があり,開館した1994年度の入館者数を超える結果となった.

高浪の池は,ヒスイ産地である小滝川ヒスイ峡ジオサイトをめぐる観光コーズ上にあり,糸魚川の代表的ジオサイトである.2007年度に19,360人の入込客数であったが,世界ジオパーク認定後の2009年度以降は,民間の観光バスツアーの増加により2012年度には28,940人の入込客数を記録している.しかし,観光バスツアーが減少した2014年は17,720人と大幅な減少を記録した.北陸新幹線開業も,二次交通のない高浪の池では増加の要因とはならず,2017年度の14,610人まで一貫して減少傾向にある.

糸魚川ジオパークでは,2010年に既存のガイド団体を母体に,ジオパーク観光ガイドの会と発足した.発足当初(2010年度)のガイド件数は年間97件,1,770人の利用であった.2011年度~2014年度のガイド利用者数は年間1,000人前後で推移していたが,北陸新幹線開業を受けて利用者は上昇傾向にあり,糸魚川市駅北大火を受けて,被災した町並みをまち歩きする依頼が増加したことから,2017年度は年間147件,3,645人と過去最高を記録している.

糸魚川ジオパーク検定は,2009年から実施しているご当地検定である.初年はジオパーク世界認定の年であり,464人の受験者を数えた(図3).糸魚川ジオパークと香港ジオパークは姉妹ジオパークであり,相互に派遣事業を行っているが,2011年から糸魚川ジオパーク検定の初級に合格していることが,派遣事業に参加するための条件となった.そのため,初年に20名だった小中学生の受験者は,2011年に86名と大幅に増加している.検定受検者は,ジオパーク世界再認定(2013年)の年などに増加している(308名)が近年減少傾向にあり,新たな政策が期待される.

近年,インバウンドによる外国人観光客の増加が続いており,糸魚川市も例外ではない.2013年度に年間154人であった外国人宿泊客数(図4)は,ジオパークのユネスコ正式プログラム化(2015年)や,糸魚川シーフードシャトルバスの実施(2015年~)により2017年度は2,662人と,近隣市町村(白馬村)増加率を上回り拡大している.

糸魚川市全体の観光客数は,北陸新幹線開業で近年最高を記録したが,再び減少傾向にある(図1).ハード面での整備は,一時的な入込客数の増加に繋がるが,持続的に地域を発展させるためには,ソフト面でのアプローチが必要である.例えば,2018年度のフォッサマグナミュージアムの入館者数は特別展「宝石の国展」の効果により,2017年度の90,117人を越える見込みである.特別展の誘導効果により,高浪の池の入込客数も17,230人と増加に転じており,地域全体を活性化させる取組みが持続可能な社会を作るといえる.