日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG24] アルマによる惑星科学の新展開

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:武藤 恭之(工学院大学 教育推進機構)、百瀬 宗武(茨城大学理学部)、佐川 英夫(京都産業大学理学部)、下条 圭美(国立天文台)

[PCG24-P01] タイタン大気における窒素同位体分別:ALMAアーカイブデータの解析

*佐川 英夫1飯野 孝浩2塚越 崇3 (1.京都産業大学、2.東京農工大学、3.国立天文台)

キーワード:タイタン大気、ALMA、同位体比

窒素分子を主成分とするタイタン大気にはシアン化水素HCNやアセトニトリルCH3CN,シアノアセチレンHC3Nといった多様な窒素化合物群が含まれており,複雑な大気化学過程の存在が示されている.これら窒素化合物群における窒素同位体比14N/15Nの計測も実施されており,窒素分子およびシアン化水素において,それぞれ 167±0.6 (Niemann et al. 2010) および 60 - 70 (e.g. Marten et al. 2002; Gurwell, 2004) が報告されている.これら同位体比は太陽および地球における同位体比である440および272からは大きく離れており,またタイタン大気内でも2 - 3倍という分別を示していることからも,タイタン大気内における特徴的な同位体分別過程の存在を示唆している.

タイタンはALMAのキャリブレーション用の天体として利用されていた経緯があり,900件以上のタイタンデータがALMAアーカイブに収録されている.それらの中には,限られた件数ではあるが,周波数分解能および空間分解能が十分に高く,タイタン大気中の微量成分のスペクトルが観測されたデータを見つけることが出来る.我々はそうしたALMAアーカイブからアセトニトリルの15N置換体の輝線が検出されているデータを選出し,過去には観測例が無い同分子における14N/15Nの導出を試みた.観測日は2015年4月29日であり,J = 19 - 18遷移に付随する380 GHz周辺の複数のK遷移を検出した.同位体比を定量する際には当然ながら14Nを含むアセトニトリルの存在量も必要となるが,好都合なことに同日に観測された同観測プロジェクトに331 GHz周辺のJ = 18 - 17遷移のスペクトルが検出されており,アセトニトリルの高度分布はそれらのデータを用いて大気中の放射伝達計算を反転解析することで導出した.

アセトニトリルにおける14N/15N値は~50(速報値)であり,窒素分子よりシアン化水素分子に近い値を示した.また,ALMAの観測した分子輝線強度から導出されたシアノアセチレン中の14N/15N値 (67±14, Cordiner et al. 2018) とも調和的である.一方で,化学反応ネットワークシミュレーションで予想されている値 (70 - 200, Dobrijevic and Loison 2018) とは一致しなかった.今後はより詳細な14N/15N値の導出を試みるとともに,同位体分別過程の制約を目指す.