日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG25] 惑星大気圏・電磁圏

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:関 華奈子(東京大学大学院理学系研究科)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、前澤 裕之(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学科)、寺田 直樹(東北大学大学院理学研究科)

[PCG25-P07] ピリカ望遠鏡による海王星ストームの観測

*佐藤 佑樹1高橋 幸弘1高木 聖子1佐藤 光輝1大野 辰遼1 (1.北海道大学大学院理学院)

キーワード:海王星、地上観測

海王星では直径が4,000 kmを超える巨大なストームが時折発生しており, 先行研究では , ボイジャー2号が1989年5月24日に海王星を観測し, 大暗斑と呼ばれる直径13,000 kmのストームを発見した. 大暗斑は木星の大赤斑と同様南半球に位置していたが, その後, ハッブル宇宙望遠鏡が1994年に観測したところ, 大暗斑は消滅していた. 大暗斑のようなストームは海王星で常に発生しているのか, 突発的なものなのか不明である.
 また, 直径9,000 kmのストームが2017年6月26日, 7月2日にケック天文台10 m光学近赤外望遠鏡で観測された. 通常, 海王星のストームは上昇気流が発生している南北の中緯度で発生すると考えられている. しかし, このストームは赤道付近で発生している. 海王星の自転軸傾斜角は29.6度であり, 季節変化によって赤道付近でストームが発生した可能性も考えられる.
 ケック天文台やハッブル宇宙望遠鏡によって海王星は観測されているが, それらの望遠鏡を常に海王星観測に使用することは難しい. そのため、短い時間スケールで長期的な海王星ストームの観測は行われていない. 本研究では海王星全体のスペクトルを観測することによって, ストームの移動速度や規模を推定する手法の開発を行った. それにより, シーイングが悪い時でも観測可能になり, 短い時間間隔で長期的な海王星ストームの観測データを取得することができるようになった. この手法で, ストームの詳細な変動を追うことで, 海王星大気の対流構造の理解を深めることに繋げる.
 本研究では, 北海道大学が所有する口径1.6 mのピリカ望遠鏡を用いて海王星のスペクトルを観測した. 時期は2017年8月7日から2018年1月17日, 2018年10月22日から11月26日までである. 2017年の観測波長は650-1050 nm, 2018年は890, 855 nmである, 本研究では, メタンが890 nmを強く吸収するという性質を用いる. 海王星大気にはメタンが存在し, 890 nmで海王星を観測すると, 周りの領域よりも高度の高いストームはより明るく見える. よって,ストームがある面を観測すると890 nmフラックスは大きくなる. また, 海王星の自転によって, 観測点からのストームの見た目の大きさは変化するため, 890 nmのフラックスも変化する.地球大気の影響を補正するために, 890 nmフラックスと他波長のフラックスの比をとり, 相対強度を求めた. 890 nmフラックスの相対強度の理論値を求め, その理論値と観測値を比べ, フィッティングをすることで, ストームの移動速度や規模を見積もった. ストームの面積を仮定しストームの890 nm反射率を求め, ストームの規模は面積と反射率の積とした.
 2017年のストームの移動速度は47.5°/ day、2018年は24.9°/ dayと推定した. 2017年のストーム規模は, ストーム直径を9,000 kmとし890 nm反射率を0.217と推定し, 2018年では, ストーム直径を4,500 kmとし890 nm反射率を0.105と推定した. Edward Monlter et al.(2019)の研究では, 2017年のストームは北緯2度に位置し, 移動速度は 237.4 ± 0.2 m/s, 47.78 ± 0.04°/ day と示している。本研究で推定した移動速度と整合性がある.