日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM18] 太陽圏・惑星間空間

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:坪内 健(電気通信大学)、西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、成行 泰裕(富山大学人間発達科学部)、岩井 一正(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

[PEM18-P01] チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星周辺における彗星起源イオンの加速過程に対する電場の寄与について

*山岸 和樹1加藤 雄人1木村 智樹1熊本 篤志1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

キーワード:彗星、電場、イオン加速、太陽風小天体相互作用

彗星は水を主成分とする、数キロから数十キロメートルほどの小さな天体である。彗星表層から昇華により放出される水分子の一部は、電子衝突電離や光電離を経てイオンとして宇宙空間に拡散していく。彗星周辺におけるイオンの運動にかかわる物理を理解することは、天体から宇宙空間への分子供給過程やその規模の考察に繋がり、彗星による他天体への物質輸送や、小天体における大気流出過程の理解にも繋がると考えられる。

ESA(欧州宇宙機関)が2004年に打ち上げた探査機ロゼッタは、2014年8月から2016年9月までの約2年間に渡り、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星周辺でのその場観測を実施した。ロゼッタの観測結果に基づいた過去の研究では、彗星起源のイオンが彗星核から離れるに従って動径方向に加速されていることが示された(Behar et al., 2018)。彗星周辺ではambipolar電場、motional電場、Hall電場の3成分の電場が存在しうるとされ、Behar et al. (2018)では彗星核近傍における彗星起源イオンの加速には、電子の圧力勾配に起因するambipolar電場が特に寄与していることが示唆された。彗星周辺の電場による拡散や加速は彗星起源イオンの運動を理解するために重要な過程であるが、定量的な検討が課題として残されている。本研究は彗星起源イオンの加速に対する電場の寄与を定量的に評価することを目的とする。彗星周辺の電場を推定し、彗星起源イオンの加速過程と空間分布を見積もって、ロゼッタの観測結果と比較し考察する。

本研究ではまず、彗星核から1000 kmまでの領域における電場の大きさを評価した。電場としてはambipolar電場のみを考慮し、彗星核周辺における電子の圧力分布から電場の空間分布を求めた。電子の圧力分布については、彗星ガスの放出率と電離率を観測結果に基づいて決定して数密度の分布を与え、電子温度を5 eVと仮定して求めた。次に、電場中での彗星起源イオンの速度発展をテスト粒子解析により計算した。その結果、初速度0.7 km/sの彗星起源イオンは核から1000 kmの地点までに22.6 km/sまで加速されることが示された。一方で、ロゼッタの観測結果より、彗星核から600~1000 kmの位置において彗星を起源とするH2O+イオンは40~80 km/sにまで加速されていることが明らかとなっており、ambipolar電場による加速のみでは実際の速度発展を説明するには不十分である可能性が示唆された。本研究ではさらに、motional電場を考慮した場合のイオンの速度発展について考察し、彗星周辺におけるイオンの運動と加速における電場の寄与について議論する。