日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS01] Outer Solar System Exploration Today, and Tomorrow

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:木村 淳(大阪大学)、笠羽 康正(東北大学 惑星プラズマ・大気研究センター)、Kunio M. Sayanagi(Hampton University)

[PPS01-P04] ハワイIRTF望遠鏡赤外分光による木星大赤斑の熱圏温度増大の検出

*神原 歩1北 元2坂野井 健1笠羽 康正1鍵谷 将人1渡辺 はるな1 (1.東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター、2.宇宙航空開発機構 宇宙科学研究所)

キーワード:木星、大赤斑、熱圏

木星を含む巨大惑星の熱圏は、太陽極端紫外線による加熱による予測温度より数100K高温であることが知られる[Yelle and Miller, 2004]。中低緯度での比較的低エネルギー降下粒子による大気直接加熱や、高緯度でのオーロラ領域加熱の低緯度への輸送が高温となっている説明として考えられているがよくわかっていない[Waite et al., 1983]。その他の要因として、下層大気で励起した大気重力波・音波等よるエネルギー輸送がその原因として提唱されている。そのような大気波動は木星では観測されていない。そこで本研究では木星の大赤斑に着目した。大赤斑は対流圏の高気圧性の嵐であると想定されていることから、この領域では大気重力波や音波が発生しやすい可能性がある。大赤斑上の上層大気温度上昇を捉えることで、下層大気-上層大気間のエネルギー輸送現象を明らかにすることができる。最近、O’Donoghue et al. [2016]により、IRTF赤外分光装置SpeX(λ/Δλ~2500)によるH3+発光の2つの輝線強度比(3.383μm/3.454μm)から熱圏大気温度を導出した結果、大赤斑上で1644±161K、その他中低緯度領域では900±42Kと、大赤斑上での加熱を示唆する結果が報告されている。この説明として、大赤斑域での下層大気からのエネルギー輸送、すなわち対流圏高気圧性嵐である大赤斑で発生した大気重力波・音波の熱圏への伝搬が挙げられた。
ただし先行研究では波長分解能が低いため、CH4の発光輝線が分離できず、温度推定に誤差が残っている可能性が指摘されている。また大赤斑に注目した熱圏温度推定はこれまでこの一例しか報告されておらず、木星での大気波動によって熱圏温度に時間変化や空間変動は確認されていない。そこで我々は2017年1月11日にハワイ・マウナケア山頂にあるIRTF望遠鏡のエシェル赤外分光装置iSHELLを用いて、大赤斑近傍での熱圏大気温度観測を実施した。観測は、iSHELLのLp1-mode (3.265-3.657μm)で行った。観測では、長さ15″のスリットを、大赤斑を含む東西方向に配置し、一つの撮像フレーム内に大赤斑と大赤斑以外の中低緯度領域の情報を同時にとらえた。ここで、30秒間で木星データ、スカイデータのデータ取得を交互に行った。一晩で木星とスカイデータは計9セット得ることができたが、今回はその中でデータ補正が良好であった4セットを用い、温度導出を行った。解析において、校正や物理量変換はNASA提供のデータ補正・校正ツールSpextool ver. 5.0.1を用いた。熱圏温度導出は、O’Donoghue et al. [2016]と同じH3+発光輝線強度比(3.3839μm/3.4548μm)を用いた。ここで、3.3839μmの輝線近傍にCH4輝線(3.4554、3.4538、3.4539μm)が存在するため、精密にその影響を差し引く必要がある。この波長差は最も近接しているものでおよそ3×10-3μmであり、iSHELLより高波長分解能(λ/Δλ~75000)で分離することができる。この特長を生かして3.4548μmの発光輝線とCH4輝線の分離を実現し、より正確な温度推定を可能とした。我々のこれまでの解析結果から、大赤斑の熱圏温度は911±132K、その周囲の同緯度域で583±30Kと見積もられ、大赤班上の熱圏温度は周囲より有意に高いことが明らかになった。この事実は、大赤斑で発生した大気重力波・音波の熱圏への伝搬の存在を示唆する。また本研究で得られた熱圏温度はO’Donoghue et al. [2016]と比較して大赤斑上で約700K、その周辺で約300K低かった。これは観測機器の違いや熱圏温度に時間変動が存在する可能性か考えられる。本講演では、大赤斑の内外における熱圏温度の観測・データ解析の詳細と、その評価について検討した結果を報告する。